博物館として高い人気を誇る大英博物館。250年以上の歴史を持つ同館の顔ともいえるのがエジプト部門であり、その研究成果は当該分野をけん引してきた。そんな大英博物館の古代エジプト文明の最新の研究成果を踏まえ、ミイラづくりの時代ごとの変遷や、当時の社会背景などをさまざまな角度から知ることができる特別展「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」が、東京・上野の国立科学博物館(科博)にて、2021年10月14日から2022年1月12日まで開催される。
同展は、6体のミイラを選りすぐり、CTスキャンを用いた画像解析による研究成果と併せて紹介。その6体のミイラも王族ではなく、役人や神官、既婚女性、幼い子供など、年齢や性別、社会的立場、さらには生きていた時代も異なるものたちで、そこに「食」や「音楽」、「家族」などのテーマと併せて紹介することで、当時の生活の様子や文化を知ることができるようになっている。
こうした形式のため、「アメンイリイレト テーベの役人」、「ネスペルエンネブウ テーベの神官」、「ペンアメンネブネスウトタウイ 下エジプトの神官」、「タケネメト テーベの既婚女性」、「ハワラの子ども」、「グレコ・ローマン時代の若い男性」といったそれぞれのミイラを中心に、そのミイラの生きた時代の社会風俗などにまつわる品などが展示される形式となっている。
また、後半には監修者で金沢大学 新学術創成研究機構の河合望 教授を隊長とする日本エジプト合同・北サッカラ調査隊が2019年にサッカラ遺跡で発見し、現在でも調査が続いているローマ支配時代のカタコンベ(地下集団墓地)の内部の様子を実寸大の部分模型で再現したものを見ることもできる。かなり細かい発掘物まで配置するなど、こだわって再現されており、実際の発掘を体験している気持ちになれるコーナーも用意されている。
さらに、第2会場では科博が所蔵している「猫のミイラ」も公開。併せて花王 感覚科学研究所の協力のもと、ミイラ作成当時の匂いを再現したものを実際に嗅ぐことができるコーナーもある。ぜひ、実際に嗅いでみて、ミイラとはどういう匂いであったのかを感じてみてもらいたい。
報道内覧会で挨拶に立った国立科学博物館長の篠田謙一氏は、「ミイラをCTスキャンすることで、その人の死がわかる。死がわかることでどのような生活をしていたかなどの“生”がわかる。考古遺物で語ることでどんな古代社会かについて説明している。これまでの展示会では遺物がどのような形で発掘されたのか伝えきれていなかったが、今回、金沢大学の河合先生に日本人の発掘調査について展示してもらった(サッカラ遺跡の調査の展示)。また、日本がどのようにエジプト文明を意識してきたかも展示した。そこも見どころになっていると思う」と見どころを語ってくれたほか、国立科学博物館 人類研究部 人類史研究グループ長の坂上和弘氏は、「今回、6体のミイラを中心としてそれぞれどういう人生を歩んできたかがわかる珍しい展覧会になっている。ツタンカーメンのようなスターではなく、名もない人もいるような展覧会は初めて。そこから何がわかるのかを中心に展示を構成しているのでお楽しみいただけたら。また、日本人がエジプトをどのように認識していたかを第二会場では展示した。第二会場の展示物はほとんどが国立科学博物館所属のもの。一番最後の猫のミイラが目玉となっている。猫のミイラの匂いを再現した展示も見どころになっていると思う」と、日本人と古代エジプトの関わりについても注目してもらいたいとした。
また、金沢大学の河合教授は、「今回展示されるミイラは、紀元前800年ころから紀元後100年くらいの間の別々の時代に生きた6人のミイラとなっている。紀元前800年ころというのは古代エジプトにおいてミイラ制作レベルが最高峰に達した時期。そういったことがCTスキャンで分かる。それぞれのミイラがどのようにつくられたのか、中に入っている装身具や護符の位置に意味があり、それがCTスキャンで分かるということが展示を通して皆さんに伝えられると思っている。また、今回展示されているのはそれぞれ社会的な地位が違う人々。その人たちに関する、異なるさまざまなものが展示されている。例えば子供のミイラだったらおもちゃだったり、女性だったらおしゃれをするもの。そういったものはほかのエジプト展では見られないと思っている。そういったものを通じてエジプトの文化の変遷がどのように変わったかもわかる。非常にユニークで最新の技術を使った展示になっているのでぜひとも多くの人に見ていただきたい」と、今回の展示のユニークさを強調した。
ちなみに同展は基本的に撮影禁止。一部、ヒエログリフとツタンカーメン王の黄金のマスクのレプリカが展示されている廊下部分のみ撮影が可能となっている。
なお、同特別展の開催概要ならびに注意事項は以下の通り。
- 会期:2021年10月14日~2022年1月12日(休館日は毎週月曜と12月28日~1月1日。ただし12月27日、1月3日・10日は開館)
- 入場料:一般・大学生:2100円、小中高校生:600円(未就学児ならびに障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料)。
- 入場する人全員が公式チケットサイトにて事前予約(日時指定)が必要
- 来場時にはスタッフによる予約確認、検温および体調確認が行われる