フィンランドの通信開発ベンダー NOKIA の日本法人である、ノキアソリューションズ&ネットワークス(ノキア)は10月13日、同社のイベント「Connected Future 2021」を開催し、移動体通信を実現するセルラーネットワークにおけるカーボンニュートラルに向けた取り組みや、IP(特許)ポートフォリオ戦略によるサステナビリティ目標の実現について説明した。
ノキア CEO ペッカ•ルンドマルク氏は、3Dホログラム投影により遠隔からプレゼンテーションを行い、冒頭、「5Gによる経済とイノベーションの発展と、環境への影響を最小限に抑えることは、両立しなければならない」と強調した。
人間の影響による気温上昇は1.1度
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の調査結果によると、人間の影響による地球の気温は1950年~2020年の間で約1.1度上昇した。テレコミュニケーションがその原因の一つになっていることは間違いない。
例えば、映像コンテンツの視聴方法を、地上波テレビから「Netflix(ネットフリックス)」などのビデオストリーミングサービスに移した場合、温室効果ガス排出は約3倍になり、テレビの画質がHDから4Kになることで温室効果ガス排出は約40%増えるという。
このままのペースで進むと、80年後には今よりも3.0度以上高い気温になることが示唆されている。温室効果ガスの排出を大幅に減らし、人間の影響による気温上昇を1.5度までに抑えることを目的に、さまざまな企業がカーボンニュートラルに向け試行錯誤している。
ノキア 最高技術責任者(CTO)の柳橋達也氏は、「脱炭素に向けた取り組みは義務感だけで行うべきではない。先進的に取り組み、企業の利益につながることで初めて価値が出る。それによって生み出されるビジネスがあることが重要だ」と、同社のカーボンニュートラルに対する姿勢をみせた。
モバイル通信は脱炭素につながる?
そもそもモバイルネットワークの温室効果ガス排出量はどこから来るのだろうか? 柳橋氏によると、全体のうち47%が携帯電話やロボット、自動車といったユーザー端末で、29%がデータセンター、固定ネットワーク、携帯ネットワークがそれぞれ13%、11%となっているという。
ICT(情報通信技術)部門のライフサイクル全体のカーボンフットプリント(排出する炭素の重量)は、世界の炭素排出量の1.4%、世界の電力資料量の約4%に相当する。またICT関連の温室効果ガス排出量の約10分の1は、既存の5G(第5世代移動通信システム)以外のモバイルネットワークが原因で、80%は無線アクセスネットワークによるものだとしている。
一方で、モバイル通信を積極的に活用することで温室効果ガス排出量の節約につながると、柳橋氏は説明する。
「モバイル通信は人々や組織が移動する必要性を減らし、建物や交通機関をより効率的に運用するなど、さまざまな方法で膨大な量の温室効果ガス排出を回避するのに役立つ。この節約効果は、ネットワーク自体が引き起こす温室効果ガス排出量の10倍だ」(柳橋氏)
次世代シリコン発表 ‐ 電力消費75%減
ノキア自身が取り組むことは、ハードウェアとソフトウェアのモダナイゼーションに加えて、自社シリコンの開発、AI(人工知能)による自動化・最適化、廃棄熱の再利用などだ。
同社は2021年9月21日、第5世代ルーティングシリコン「FP5」を発表した。FP5によるネットワークプロセッサは、転送能力あたりの電力消費を前世代比で75%削減することが可能だという。同じ電力レベルで比較すると、3倍の性能を発揮する。また、インテリジェントアグリケーションにより収容効率が33%向上している。
消費電力を節約するだけでなく、セキュリティ性能も向上させた。チップセットに直接統合された新しいラインレート、フローベースの暗号化機能である「ANYsec」の導入により、新たなレイヤのネットワーク保護を追加。ルータでのDDoS攻撃に対する検出と軽減を強化した。
またFP5は前世代型の「FP4」と後方互換性があるほか、ノキアのサービスルーター・オペレーティングシステム(SR OS)の最新バージョンと完全に統合されており、新しいハードウェアに移行した場合も、既存機能はすべて初期からサポートされるという。
同イベントでFP5の機能紹介を行ったIPルーティング本部長の鹿志村康生氏は、「FP5はCSP(通信サービスプロバイダー)において、将来の予期せぬことに対応していくための重要な基盤となる。地球温暖化の増大する影響に対するアクションも行うとともに、フル機能シリコンマーケットを常にリードしていく」と、意気込みをみせた。