アリババクラウドは10月11日、ビジネスを支援するAIサービスパッケージを日本向けに提供開始すると発表し、記者説明会を開催した。提供されるパッケージには、機械学習タスク用のGPUインスタンスやAIアクセラレーションエンジンに加えて、Eコマース、自動車業界向けのAIソリューションなどが含まれる。

GPUインスタンスには、第7世代に相当するNVIDIA製のA100/A10が採用されている。日本での提供はA100を1基搭載したインスタンスから、最大では8基を搭載したものまで、5段階のスペックを用意している。GPUインスタンスは画像分類やビデオトランスコーディング、グラフィックスレンダリングなどのAIタスクの展開に使用できるという。

  • 「NVIDIA A100/A10」を搭載したGPUインスタンスのスペック

また、同社はクラウド型のディープラーニング加速エンジンである、「Apsara AI Acceleration」(AIACC)の提供も開始する。同エンジンの導入によって、既存の学習環境を維持したままでも、数行のコード変更のみで学習と推論の効率化を図ることが可能とのことだ。同エンジンはTensorFlowやPytorch、MXNet、Caffe、Caffe2、Kaldiなど、現在主流となっているディープラーニングのフレームワークに対応する。

  • 「Apsara AI Acceleration」のサービス概要

同社のシニア・ソリューション・アーキテクトであるJia Jixin氏は会見の中で、胸部レントゲン画像から新型コロナウイルスの感染を識別するAIモデルを構築した検証について紹介した。AIACC導入前には学習に約145秒を要していたモデルに対して、同エンジンを導入することで、コードの変更をせずに85秒まで学習時間を短縮できたという。

  • アリババクラウド シニア・ソリューション・アーキテクト Jia Jixin氏

この結果を受けて、同氏は「今回の検証内容は私のGitHubのリポジトリに公開しているので、コードを入手いただき、ご自身の環境内で体験して欲しい」と述べた。

  • AIACCの使用によって学習速度が70%程度向上した

同氏は続けて、Kubernetesを活用したAI開発と運用を包括的にサポートする「Cloud Native AI Suite」を紹介した。同ソリューションの導入によって、AIエンジニアやデータサイエンティストは、AIモデルトレーニングのO&M(Operation & Maintenance)環境を簡素化することが可能となるため、これまでよりも低コストでAIプラットフォームが構築できるとのことだ。同ソリューションは環境の構築からモデル開発、トレーニング、および推論まで、ディープラーニング活用の幅広い段階をサポートする。

  • 「Cloud Native AI Suite」のサービス概要図

同社は、「EC商品識別AI」「車両外観損傷識別AI」「車両プライバシー保護AI」の3つのサービスをまとめた「Vision AI Services」の提供も開始する。これらのサービスは、クラウド型のAIソリューションAPIとして提供される予定だ。

「EC商品識別AI」は、Eコマース事業者のオンライン商品在庫管理を支援するソリューションである。商品の画像から服の種類や色、柄、生地などの情報を自動で抽出し、商品に適切なタグを付与可能だ。購入年齢やスタイルなどの情報と商品のタグ情報を比較することで、リアルタイムな販売傾向分析が実施できるのだという。

  • 「EC商品識別AI」のサービスイメージ

「車両外観損傷識別AI」は、画像から車両の損傷を特定し、損傷の部位や程度を自動で判定するソリューションだ。保険金請求にかかる期間を数日間から数分間までに短縮可能だという。ヘッドライトやドア、サイドミラーなど15カ所以上の部位特定が可能であり、スクラッチやへこみ、ひび割れ、亀裂など、30種類以上の損傷タイプに対応する。

  • 「車両外観損傷識別AI」のサービスイメージ

「車両プライバシー保護AI」は中古車売買サイトなどにおける、車両所有者のプライバシーを保護するソリューションである。車両を撮影した画像の中から、車両以外の背景部分やナンバープレートに自動でモザイクを施し、車両のみの情報を抽出する。軽自動車やSUV、セダンやミニバンなど幅広い車両を識別可能であり、さらに日本国内で使用される、ご当地ナンバーを含む国土交通省道路運送車両法規定のプレートにも対応している。なお、自衛隊などで使われる特殊なプレートも識別可能である。

  • 「車両プライバシー保護AI」のサービスイメージ

記者説明会の中で、同社のカントリーマネージャを務めるUnique Song氏は「当社はこれまで、日本市場においてゲーム業界やスタートアップ企業のサポートに取り組んできた。この度のAIソリューショの導入をきっかけにして、より多くの企業にも当社の技術を活用してほしい」とコメントした。

  • アリババクラウド カントリーマネージャ Unique Song氏