京都大学(京大)、JEOL RESONANCE、理化学研究所(理研)の3者は10月8日、常温・常圧下において二酸化炭素(CO2)を有用な多孔性材料へと変換する新しい手法の開発に成功したと共同で発表した。

同成果は、京大 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の堀毛悟史准教授、京大 工学研究科の門田健太郎大学院生(研究当時)、JEOL RESONANCEの西山裕介研究員(理研 科技ハブ産連本部 バトンゾーン研究推進プログラム 理研-JEOL連携センター ナノ結晶解析連携ユニット ユニットリーダー兼任)、京大 iCeMSのDaniel Packwood講師らの共同研究チームによるもの。詳細は、米化学会が刊行する学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

人間の社会活動で増加した大気中のCO2は、多くの環境問題の原因の1つとして考えられている。もし、それを有用な材料や燃料として活用できれば、環境問題の解決や持続的な社会の実現が可能になると期待されている。しかし、これまでの研究の多くは、CO2を有用な材料に変換する際に、高温・高圧下での反応や、高価な貴金属触媒の使用を必要とし、実用という点では課題があった。

そこで今回の研究においては、近年、大きな進展を見せ、エネルギー貯蔵からガス分離まで幅広い分野で活用されるようになってきた多孔性材料に着目。特に、金属イオンと有機分子からなるジャングルジムのような構造を持ち、90年代後半に発見されて以来、これまでに9万種類以上が開発され、一部は半導体ガス貯蔵用途などに用いられてきた多孔性金属錯体「PCP/MOF」に注目することにしたという。

これまでのPCP/MOFではCO2を原料として作られたことはなかったというが、今回の研究では、「ピペラジン」と呼ばれる有機分子アミンと、応用性を考慮して安価かつ無毒な亜鉛イオン(Zn2+)を含む溶液中に、CO2を吹き込むという1ステップで、80%以上の高い収率で合成できる手法を開発することに成功。反応は数分で完了し、得られるPCP/MOFは高い純度を持つという。また、アミンと金属イオンの組み合わせを工夫すれば、常温・常圧のCO2をさまざまなPCP/MOFへ変換することが可能だともしている。

  • 二酸化炭素

    (左)常温・常圧のCO2から作られるPCP/MOFの結晶構造。(右)ピペラジン(アミン)とCO2より架橋性配位子が形成され、同時に亜鉛イオン(Zn2+)と反応し、PCP/MOFが形成される (出所:共同プレスリリースPDF)

こうしてできたPCP/MOFの詳細を調査したところ、CO2がアミンと反応し、架橋性配位子として存在していることが確認されたほか、CO2由来の架橋性配位子が金属イオンを連結することで高い周期性を有した均一な細孔が観察されたという。この細孔のサイズは、1nmで、その構造から重さあたり30%以上がCO2からできていることが判明。また、理論計算にて得られたCO2の状態は、常温での反応から得られたにもかかわらず、金属イオンとの強い相互作用により、安定的に構造中に取り込まれていることが示されたという。

この合成手法はさまざまな条件でも働くとのことで、例えば、一度の反応で9リットル(16g)分のCO2を50gのPCP/MOF粉末へと変換し、固体として閉じ込めることが可能だとするほか、空気を用いてこの反応を試すと、空気中に存在する低濃度(0.04%)のCO2とアミン・金属イオンが反応することも確認されたという。

さらに、合成したPCP/MOFの細孔中に多量のCO2を貯蔵することも可能であることも確認。今回の研究では、常温において26気圧をかけた結果、材料1gにおいてCO2が0.7g含有された高濃縮状態を実現したという。

  • 二酸化炭素

    (左)CO2のフローにより生成するPCP/MOFの大量合成の例。80%を超える収率と高い純度で生成物が得られる。(右)9L(16g)のCO2から得られたPCP/MOF粉末(50g) (出所:共同プレスリリースPDF)

研究チームによると、金属イオンとアミンの組み合わせを工夫することで、さまざまな構造・機能を持った多孔性材料の合成や、不純物を多く含む工場の排ガス中のCO2など、資源化の対象の拡大も期待されるとしている。