ServiceNow Japanは10月8日、Now Platformの最新版「Rome」を発表した。同社は毎年2回、Now Platformのバージョンアップを実施している。今回は3月の「Quebec」に続いて、2度目のバージョンアップとなり、同日に記者説明会が行われた。
ServiceNow Japan 執行役員 ソリューションコンサルティング事業統括本部 部長の原智宏氏は、ハイブリッドワーク導入が進む中で、企業のIT部門には「柔軟な働き方のサポートと変化に対応してビジネスを創ることが求められている」とする。そのうえで同氏は、Romeのキーイノベーションとして「洗練された体験をすべての従業員へ」「AIをあらゆるサービスオペレーションへ」「期待値を遥かに超えたサービス体験をお客様へ」を挙げた。
それぞれのキーイノベーションに対応する機能については、ServiceNow Japan マーケティング本部 プロダクトマーケティング部 部長の高橋卓也氏が解説した。高橋氏はRomeでは多くの機能の追加・拡張が行われていると前置き、説明会では主に「従業員体験」「AI・自動化」「顧客体験」に関連する機能を紹介した。
Employee Center
Employee Centerは、Romeで新たに追加されたポータル機能だ。ハイブリッドワークを実施する企業が従業員のデジタルコマンドセンターとして機能する。高橋氏は、「従来のポータルは、部門や機能に閉じたものを作られることが多かった。Employee Centerでは部門や組織、システムを超えて、1つのシングルポータルからあらゆる機能にアクセスできる」と述べた。
同機能では勤務地、雇用形態、肩書き、役職などの従業員のプロフィールに合わせて情報、コンテンツを提供することも可能だ。例えば、地震があった東京の従業員にだけ災害関連情報を通知したり、エンジニアにだけデバイスの更新情報を通知し、機種選択・申請までを一貫で行ったりできる。
また、どんな機能が使われているか、機能に不満がないかを把握するため、特定の機能を使用したときに機能評価のポップアップを表示することも可能だ。「サービス提供側は、ポータルの使いやすさに関するフィードバックを即座に得て、ハイブリッドワークに合った新しいサービス・機能に役立てられる」と高橋氏。
Employee Journey Management
Employee Journey Managementは、Employee Centerと連携して使用される機能で、従業員が入社してから退職するまでに体験する「エンプロイージャーニー」のサポートを目的としている。
オフィスで仕事する人とリモートワークをする人が混在する中では、情報が得られなかったり、コミュニケーションを取れなかったりする。例えば、異動した部署ではまず何をすればいいか、業務を進める中での不明点を誰に聞けばいいかなどがはっきりしていないケースもある。
Employee Journey Managementでは、入社後に受けるべき研修や部署特有のイベント、メンターに関する情報などを事前に設定して、個別のポータルに表示させることができる。
Automation Discovery
Automation Discoveryは、開発者のAI活用を支援する機能だ。ユーザーのデータを分析し、180以上のパターンとマッチングさせて、有効にすべきAI機能とその効果を判定。優先順位の高い10件のケースを提案する。
Health Log Analytics(健全性ログ分析)の強化
Health Log Analyticsは前バージョン「Quebec」で導入された機能だ。Loom Systemsの機能をNow Platformにリビルドし、AIOps機能を強化したもので、今回のバージョンアップではログが確認できるダッシュボードとログソースが追加された。
従来は画面を切り替えながらログ分析をする必要があったが、1つのダッシュボード画面でログルールの追加や表示項目を変更しながらの分析を実施できるようになった。
AzureやAWSなどのクラウドのログデータも直接取り込み、一元管理できるようになった。また、5月にリリースした横断的にデータを収集・監視する「Agent Client Collector」からのログも併せて分析できる。
Romeではマネージドサービスプロバイダー(MSP)に対応したため、MSP事業者もHealth Log Analyticsを利用しながら顧客に対しても同機能を提供できるようになった。
Playbooks: Focused Layout
Playbooks: Focused Layoutは、カスタマーサービススタッフと顧客間のプロセスを可視化することを目指したカスタマーサービス向けの機能だ。
問い合わせ対応の品質をスタッフ間で均一にできるよう、カスタマーサービス対応のプレイブック(ルールブック)が自動で表示され、問い合わせのケース作成から対応、クローズまでのステップを確認できる。
各種の情報は1つの画面で閲覧でき、過去の問い合わせ内容や問い合わせのあったサービスに関連する他のサービスの記録もひもづけられる。
高橋氏は、「問い合わせが増えてきて人員を増やす必要がある一方で、ハイブリッドワークでは新たなスタッフが最初からリモートで業務に対応することもありえる。周囲に人がいない中で個人に依存した対応を避けるために役立つだろう。また、マニュアル化されていなかった暗黙知やノウハウなどの共有にも活用できる」と話す。
Mobile App Builder
Mobile App Builderは、従来の「Mobile Studio」の後継機能となり、直感的なインターフェースによるモバイルアプリの開発環境を提供する機能だ。
モバイルアプリ開発後は、新機能の追加やGUIのちょっとした変更がたびたびある。同機能では階層構造になっているインターフェース上で階層と項目を追加することで、迅速な構築・設定が可能だ。
iOSとAndroidに対応しており、操作におけるガイド機能も付いている。
市民開発プラットフォーム(No/Low Code)
前バージョン「Quebec」で導入されたCreator Workflowsで、ローコードなアプリケーション開発環境を提供する「App Engine Studio」が提供された。
Romeでは同機能に、他の開発者との共同開発のための「市民開発プラットフォーム」が追加された。
高橋氏は、「IT部門に頼らず、現場のユーザーがローコード/ノーコードでアプリケーションを開発する『市民開発』が広まりつつある一方、管理者へのリリース許可を得ることが煩雑だったりする。また、同じソースを複数の人で開発しているとコンフリクトが起こることもある」と市民開発の課題を挙げる。
Romeではそうした課題解決のため、ガバナンス機能を強化し、開発者の権限レベルを柔軟に設定・変更できるようにした。また、ソースコントロール機能を提供して開発チームの情報を一元管理できるようにもした。Gitとも連携可能になったため、Gitのレポジトリと連携しつつ広範なデータソースを管理できる。
インダストリーソリューションに業界特化のデータモデル
従来からServiceNow Japanは、特定の業界に特化した「インダストリーソリューション」を通信、金融サービス業向けに提供してきた。
Romeでは製造業向けとライフサイエンス向けのソリューションが追加されたほか、業界に特化したフレームワークとデータモデル、アプリケーションとワークフローを追加実装した。
多くのユーザーはNow Platformと既存のアプリケーションを業務に利用しているが、一部の業界・業種ではデータに関して業界独特の呼び名を使用したり、独特のデータやカラムを追加していたりしており、業界に合わせたカスタマイズをユーザー側で行っていた。
「Romeでは、例えばバンキングのフレームワークや通信のAPIなど、その業界に求められる機能が標準で入っているため、ユーザーは自らカスタイズせずに済む。ユーザーの環境も都度バージョンアップされており、個別開発ではバージョンアップの負荷が高い。Romeでは、SaaSによって開発や管理のベース環境を提供しつつ、業界特有のデータなどによって継続的なバージョンアップの工数削減にも寄与すると考える」(高橋氏)