米VMwareは10月5日から7日(現地時間)にかけて、年次カンファレンス「VMworld 2021」を開催した。6日には、「Accelerating Innovation, Strategies for Winning Across Clouds and Apps」というテーマの下、基調講演が行われ、今年6月にCEO(最高経営責任者)に就任したラグー・ラグラム氏が登壇した。
VMworldでは毎回、同社の方向性や戦略が示され、それらを具現化する新製品の発表が行われる。同社のクラウドコンピューティング事業を主導してきたラグラム氏は、新たなる戦略として何を語ったのだろうか。
今後20年間、主流になるマルチクラウド
ラグラム氏は、同社のビジネスについて、フェーズ1はサーバの仮想化、フェーズ2はデータセンターの仮想化だったとした上で、現在はフェーズ3の段階にあり、「今後20年間はマルチクラウドが主流になる」と述べ、同社がマルチクラウドに注力していくと語った。
同社の調査によると、75%の企業が2つ以上のパブリッククラウドを、40%の企業が3つ以上のパブリッククラウドを使っていることがわかっているという。さらに、ラグラム氏はデータ主権を確保するためにソブリンクラウドの利用が進み、5Gへの移行に向けてサービスプロバイダーとの連携が始まっていることを紹介し、マルチクラウド市場が活気にあふれていることを強調した。
しかし、ラグラム氏は「マルチクラウドには課題もある」と指摘し、その具体例として、「エンタープライズのアーキテクチャの分散」「ワークロードの分散」「サイロ化されたツール」を挙げ、こうした環境では、アプリケーションの実行・管理・接続・保護が困難になり、「開発者はもっと使いやすいクラウドでアプリケーションを開発したいと思うだろう」と語った。
加えて、「企業は顧客や従業員が迅速にアクセスできることを期待されており、そこでは、セキュリティが妨げになってはいけない。こうした状況からマルチクラウドは多様な環境であり、複雑さを増している」と、ラグラム氏は述べた。
柔軟性とコントロール性を実現するVMwareのアプローチ
ラグラム氏は、こうしたマルチクラウド環境において、企業は、さまざまな選択を迫られることになると話した。
マルチクラウドにおいて、企業は、3つの選択肢に迫られるという。1つ目の選択肢は「開発者の自律性と選択肢を尊重するか、一貫性のあるコードをデプロイするためにDevSecOpsを優先するか」だ。2つ目の選択肢は、「アプリケーションを異なるクラウドで運用するための柔軟性を優先するか、環境とコストをコントロールすることを優先するか」だ。3つ目の選択肢は、「従業員がどこからでもアプリケーションにアクセスすることを優先するが、アプリケーションとデータを保護するセキュリティを優先するか」だ。
ラグラム氏は、「VMwareのアプローチなら、これらの選択肢を迫られることはない」と語った。これはどういうことか。
VMwareは、マルチクラウドにおいて柔軟性とコントロール性の双方を持つべきと考えており、同社のマルチクラウドに対するアプローチは、「開発者の自律性を尊重しながら、DevSecOpsを効率化し、エンタープライズアプリをあらゆるクラウドで運用しながら、制御とコスト削減を実現し、従業員があらゆる場所からアプリケーションにアクセスできる環境を提供しながらワールドクラスのセキュリティを確保できる」という。
VMware Cross-Cloud Servicesとは?
今回、あらゆるクラウドでアプリをビルド・実行・保護するためのサービス群として、「VMware Cross-Cloud Services」が発表された。「VMware Cross-Cloud Services」は、以下の5つの主要な機能から構成される。
- クラウドネイティブなアプリを構築・展開するためのプラットフォーム
- エンタープライズアプリを運用・実行するためのクラウドインフラ
- 異種混在のクラウド間でアプリのパフォーマンスやコストを監視・管理するクラウド管理機能
- マルチクラウドの運用全体にまたがるセキュリティとネットワーキングによる、すべてのアプリの接続と保護
- 分散化された業務環境を実現するデジタルワークスペースと、エッジ ネイティブ アプリを展開・管理するエッジ ソリューション
ラグラム氏は、「VMware Cross-Cloud Services」のメリットとして、「クラウドジャーニーの加速」「コストの削減」「あらゆるクラウドを利用できる柔軟性と選択肢」の3点を挙げた。
顧客のニーズに対応したイノベーションを創出する基盤
続いて、ラグラム氏は5つの主要機能について、今回発表された注目のソリューションを紹介した。まずは、アプリケーションプラットフォームに属する「Tanzu Application Platform」だ。本番環境でのデプロイメントを支援する。クラウドインフラの領域に関しては、VMware vSphereのSaaS版「Project Arctic」が紹介された。クラウドマネジメントの領域では、「Project Ensemble」が発表された。このプロジェクトは、アプリのパフォーマンス、セキュリティ、自動化をこれまでとは異なる新しいレベルで制御することを可能にするものだという。
セキュリティ・ネットワーキングの領域では、最新バージョンのサービスメッシュとKubernetesのセキュリティのテクノロジーでアプリケーションの保護を変革する。ワークスペースとエッジの領域では、「VMware Edge Compute Stack」が発表された。これにより、エッジネイティブのアプリをファーエッジで展開できるようになるという。
そして、ラグラム氏は「VMware Cross-Cloud Services」のポイントを2つ挙げた。1つは「モジュラー型で柔軟性を備えていること」だ。ユーザーは任意のクラウドから最適なサービスを選択できる。もう1つは、「あらゆる企業に多大な価値を提供すること」だ。「アプリケーションのモダナイゼーションに取り組むエンタープライズ企業から、クラウドネイティブな新興企業まで、幅広い企業のニーズに応える」と、同氏は語った。
さらに、ラグラム氏は「VMware Cross-Cloud Services」について、次のように語った。
「VMware Cross-Cloud Servicesは、お客さまが考える未来へと進むための意思決定を支援するテクノロジーと言える。私は、VMware Cross-Cloud Servicesをお客さまがビジネス上のニーズに対応したイノベーションを創出するための基盤と考えている。つまり、お客さまが必要な条件や選択肢を現在から将来にわたり、ニーズに応じて選択できるという考え方だ。これが、VMwareにとって最優先事項だ」
VMwareはこれまでもマルチクラウドへの注力を打ち出していたが、アプリケーション、AI、セキュリティ、5Gをあわせた重点分野の一つとして位置づけていた。ラグラム氏のCEO就任にあたり、マルチクラウドの下に、アプリケーション、クラウドインフラ、セキュリティ、エッジなどが連なるというフレームワークに変わったようだ。根本的な姿勢は変わらないが、クラウドに関するメッセージの出し方は変わったことが感じられる。
今回のVMworldでは、クラウドネイティブアプリのためのプラットフォーム、クラウドインフラ、エッジなど、さまざまな領域で新しいソリューションが発表された。それらについては、別途お伝えしたい。