鹿児島大学と国立天文台は10月7日、若い連星系である「おうし座XZ星系」を3年間にわたって観測したアルマ望遠鏡のアーカイブデータを解析し、連星が互いの周りを回る軌道運動を検出することに成功したことを発表した。

同成果は、鹿児島大 理工学研究科の市川貴教大学院生(研究当時)、同・城戸未宇大学院生、同・高桑繁久教授らの研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

実は星の半分ほどは二連星、三連星といった連星系であることがわかっているほか、近年、その連星系において、付随する系外惑星が発見されるようになってきた。系外惑星が存在するということは、連星系も生まれて間もない頃は、それぞれの星の周囲に原始惑星系円盤を抱えていたと考えられるが、重力の相互作用が単独の星と比べて複雑になるそうした連星系において、どのように円盤が形成され、その中でどのように惑星が作られるのかはいまだによくわかっていないという。

連星における惑星形成を理解するためには、2つの星が互いの周りを回っている軌道運動を観測から正確に求め、個々の原始惑星系円盤の傾き、回転方向と軌道運動を比較することが重要になるとことから、研究チームは今回、アルマ望遠鏡のアーカイブデータを活用して、地球からおよそ480光年にある、年齢が1000万年程度の若い連星である「おうし座XZ星系」についての調査を実施した。その結果、それぞれの原始惑星系円盤は同一平面上には存在せず、40度以上の傾きがあることが判明したとする。これは、分子ガスの時点で乱流によって分裂したとする可能性が示されたことを意味するという。

さらに、2015年から2017年まで毎年の観測データの解析を実施。その結果、連星が時計回りに運動していること(連星の軌道運動と考えられる)を書くにしたほか、その大きさは3.4天文単位に達することも判明したという。加えて、この連星系の軌道面は、個々の原始惑星系円盤の円盤面とも異なっていることも判明。これは、連星を作る2つの星が持つ個々の円盤が互いに傾いているだけでなく、連星どうしの軌道を含めすべてが異なる平面上にあることを示す結果だという。

  • おうし座XZ星系

    今回の観測結果をもとに描かれた、「おうし座XZ星系」の想像図。連星系を構成する2つの若い星の周りにそれぞれ原始惑星系円盤があり、互いに傾いている。また、2つの若い星はいずれの円盤面とも異なる平面上を軌道運動していることが確認された (C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) (出所:国立天文台アルマ望遠鏡プロジェクトWebサイト)

これまでのアルマ望遠鏡による観測でも、若い連星の原始惑星系円盤が互いに傾いている例は発見されていたというが、連星の軌道運動が明らかにされた上で、連星の軌道面とも異なる傾きを持っていることがわかったのは、今回が初めてのことだという。

  • おうし座XZ星系

    アルマ望遠鏡アーカイブデータをもとに作成された、「おうし座XZ星系」の軌道運動。おうし座XZ星A(左下)の位置を固定した上で、おうし座XZ星B(右上)の位置の変化が表されている。円盤から放射される電波の強度分布のうち、2015年はグレースケールで、2016年は赤の等高線で、2017年は青の等高線でそれぞれ表されており、それぞれから求められた星の位置が十字印で示されている (C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Ichikawa et al. (出所:国立天文台アルマ望遠鏡プロジェクトWebサイト)

研究チームでは今回の研究成果から、アルマ望遠鏡を用いた「天体アニメーション」を使った新たな研究手法の可能性が示されたことから、連星の軌道運動のみならず、星から吹き出すジェットの運動や星の明るさの時間変化など、今後さまざまな天体物理学研究に役立つことが期待されるとしている。また今後は、追加観測の実施により観測点を増やし、「おうし座XZ星系」のより正確な軌道運動を検出することを考えているとしている。