九州大学(九大)は10月6日、主に女性ホルモン「エストロゲン」の受容体に結合してホルモンの働きをかく乱すると考えられている有害環境化学物質「ビスフェノールAF」や「ビスフェノールC」が、2種類あるエストロゲンの受容体のうちのα型を活性化し、β型を阻害するメカニズムを明らかにしたと発表した。
同成果は、九大 大学院理学研究院の松島綾美准教授、米・ソーク研究所のロナルド・エバンス教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、生物学的プロセスの分子的・細胞的基盤を題材とした学際的な学術誌「Journal of Biological Chemistry」に掲載された。
プラスチックの原料である「ビスフェノールA」は有害環境化学物質の1種であり、エストロゲン受容体に弱く結合することが知られている。研究チームでも、これまでの研究から、同じビスフェノールでも、ビスフェノールAFやCが、2種類あるエストロゲン受容体のうちのα型を活性化してβ型を阻害することを報告していたが、その理由が不明だったという。
そこで今回の研究では、コンピュータを用いたドッキングシミュレーションからビスフェノールAFやCは、エストロゲン受容体β型が転写作用を発揮するときに結合する転写因子の結合を阻害する、転写因子結合阻害剤であることが予測されたことを受け、変異体を用いた実験などを実施、実際にこれらの有害環境化学物質が転写因子結合阻害剤として働くことを確認したという。
なお、研究チームへの取材によれば、「今回の成果は、女性ホルモンのエストロゲンを阻害することだけに目を向けられがちな、有害環境化学物質が複雑な作用を示すことを裏付け、新たな視点を与えることができた研究成果になった」という。
また、乳がんをはじめとする疾患関連ではα型とβ型の両方が関連し、両方を阻害する必要があるという現時点での知見を踏まえ、「今回はβ型だけを阻害する化合物を発見したが、現時点ではこのようなメカニズム(転写共役因子結合阻害剤)の治療薬がないため、今後、同じメカニズムのα型の阻害薬の開発にも繋がる成果だと考えている」としている。