東京農工大学(農工大)は10月6日、血清アミロイドAを前駆タンパク質とする「アミロイドA」(AA)が全身に沈着することで引き起こされる牛の致死性疾患「AAアミロイドーシス」を迅速に診断するための技術を開発したと発表した。
同成果は、農工大 農学部共同獣医学科の氏家直毅大学院生(研究当時)、農工大 農学府共同獣医学専攻の岩出進大学院生、コニカミノルタ 開発統括本部 要素技術開発センターの小野雄樹アシスタントマネージャー、同・岡野誉之アシスタントマネージャー、農工大大学院 農学研究院 動物生命科学部門の村上智亮准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米獣医研究所診断医協会(AAVLD)が隔月で刊行している学術誌「Journal of Veterinary DiagnosticInvestigation」に掲載された。
アミロイドーシスは、生体由来のタンパク質の誤った折り畳みによって生じる「アミロイド」が、さまざまな組織に沈着することによって引き起こされる疾患グループであり、アルツハイマー病(脳アミロイドβアミロイドーシス)などが知られている。アミロイドは、クロスβシート構造を持っているという点で正常なタンパク質と一線を画しており、それによって消化耐性や伝播性など、さまざまな特性を有しているという。
現在、アミロイドーシスの診断には病理組織学的手法が利用されているが、これらの方法には「検体の観察による正確な診断には特定の専門知識が必要」「診断までに時間を要する」などさまざまな課題があるという。そこで研究チームは今回、従来の検出の欠点を克服することを目的とした、牛のAAアミロイドーシスを検出するための新しい方法の開発を試みることにしたという。
具体的には、ニワトリやウズラのアミロイドが肉眼でオレンジ色を呈することに着目し、アミロイドには通常のタンパク質にはない光学的特性がある可能性を検討しつつ、ウシのアミロイドは肉眼では呈色しないため、その光学特性が蛍光であるという仮説を立て、その立証を目指したという。
実験として、牛の肝臓から抽出されたAAアミロイドの蛍光指紋解析が行われ、AAアミロイドが実際に特定の自家蛍光パターン(蛍光指紋)を持っていることが明らかにされ、肝臓ホモジネートからもアミロイド特異的な蛍光を検出できることも見出されたとする。
この成果を受けて、蛍光検出法をより標準的なものにすることを目的に、主成分分析を用いて蛍光指紋データを処理し、アミロイドの有無を判定するモデルを開発したという。
蛍光指紋解析は食品成分や水質調査などに使用されているが、臨床病理学の分野でこの技術を使用した研究はほとんどなかったというが、蛍光指紋解析は特別な前処理を必要としないため、サンプルを迅速に採取することが可能であることから、今回開発された技術は将来、アミロイドーシスのより簡易的で迅速な診断ツールの開発につながる可能性があると研究チームでは説明している。