台湾の半導体ハイテク産業市場動向調査会社であるTrendForceが、2022年にハイテク産業のさまざまなセグメント(半導体、ディスプレイ、通信、コンシューマエレクトロニクス、新興技術など)で起きると予想される10の主要な技術トレンドを発表した。
TrendForceが予測する2022年の10大技術トレンドは以下のとおり。
- デイスプレイ:マイクロ/ミニLEDディスプレイのアクティブマトリックス化
- スマートフォン:先進OLED技術とアンダーディスプレイカメラ
- 半導体ファウンドリ:3nm FinFETやGAAが登場
- 半導体メモリ:DDR5 DRAM量産と200層を超えるNAND開発
- 自動運転:自動運転車の自動駐車機能追加
- ネットワーキング:モバイルネットワーク業者のサービス多様化
- IoT:スマート工場はデジタルツイン化、IoTはメタバースのバックボーン
- 衛星通信:低軌道衛星市場と非地上系ネットワーク
- AR/VR:センサとAI統合で高い没入感を提供
- 第3世代半導体:SiCやGaNデバイスは8インチ化で量産へ
ディスプレイの動向
マイクロLED開発におけるいくつかの技術的なボトルネックは、2022年も引き続き存在するため、その製造コストは高止まりすると予想されるが、多くの企業は生産ラインを積極的に拡大している。
自己発光型マイクロLEDディスプレイ製品の開発に関しては、テレビが主流の開発ターゲットになっているが、IT機器と比較して技術的な参入障壁が比較的低いためで、他のマイクロLEDディスプレイ製品よりも開発が容易だと見られているといえる。
ミニLEDバックライト搭載ディスプレイ製品については、ディスプレイ製品のスペックを高め、有機ELディスプレイ(OLED)に匹敵する1:1,000,000の高コントラスト比に向け、パネルあたりの採用数が増える傾向にある。また、その製造には、より高い精度と生産能力を備えたSMT(サーフェースマウントテクノロジー)機器が必要となっている。現在のミニLEDバックライトは主にパッシブマトリックスソリューションに基づいているが、今後はアクティブマトリックスに移行することが見込まれ、それによりミニLEDチップの消費量が急増する見込みである。
スマホの動向
スマホ分野では、AMOLED(アクティブマトリックス有機EL)の供給と生産能力が増加し続けており、成熟の域に入ってきた。そのため、付加価値の向上と、競争優位性の確保に向け、追加機能と仕様の改良が進められている。2022年にAMOLEDパネルに追加されると思われる主な付加価値の1つとして折り畳み式デザインの改良が挙げられる。それにより、折り畳み式スマホの価格が下がるほか、さらなるフォームファクタやロール方式も、近い将来に生産される可能性もでてくる。TrendForceでは、折り畳み式スマホの普及率が2022年で1%以上、2024年には4%に達すると予想している。
また、LTPO(Low Temperature Polycrystalline Oxide、低温多結晶酸化物)パネルは、5Gと高リフレッシュレートディスプレイで生じる電力消費の問題に対する効果的な解決手段となる可能性がある。そのため、LTPOパネルが徐々にだが、フラッグシップスマホに搭載されていく可能性がある。さらに2年間かけて開発されたアンダーディスプレイ・カメラモジュール(カメラがディスプレイ画面に埋め込まれた構造)はいくつかのスマホサプライヤのフラッグシップモデルに採用され、カメラ部分が目立たない全面パネル活用が可能になると見られる。
半導体ファウンドリの動向
半導体プロセスの物理的な限界に近づくにつれ、「トランジスタアーキテクチャの変更」または「バックエンドパッケージング技術や材料のブレークスルー」といった面に注目する必要がある。
2018年に7nmでEUVリソグラフィが導入されて以降、2022年にはTSMCとSamsungが年後半にそれぞれの3nmプロセス技術を発表する予定だが、前者は1x-nmノード以来使用してきたFinFETアーキテクチャを継続するが、Samsungは新開発の独自のGAA(Gate-All-Around)FETを採用する計画である。
ゲートが3つの側面でソース/ドレインチャネルと接触するFinFET構造に比べ、GAA-FET構造は、4つの側面でナノワイヤまたはナノシートチャネルを囲むゲートで構成されるため、接触表面積が増加し、性能向上が期待される。2022年に登場予定の3nmプロセスで生産される最初の製品は、パフォーマンスや消費電力、チップサイズなどに対する要求が高いHPCやスマホチップであると予想されている。
半導体メモリの動向
主要DRAMサプライヤ3社(Samsung Electronics、SK Hynix、Micron Technology)は、次世代DDR5製品の量産を徐々に開始するだけでなく、5Gスマホ向けLPDDR5の供給量を増やす見通しである。中でもIntelがDDR5をサポートする新CPUをリリースすることで、DDR5はDRAMサプライヤの出荷ビット数量の約10〜15%を占めるようになると予想している。また、プロセス技術に関しては、SamsungとSK HynixがEUVを適用した1α-nm製品の大量生産を開始する見通しである。
一方、NAND製品に目を向けると、2021年は176層製品が量産に入ったが、2022年には200層以上に移行するものとみられる。ただし、メモリ容量そのもの512Gビット/1Tビットのままである可能性があるとしている。
自動運転技術の動向
日常生活の向上を目的とした自動運転技術の実装の一環として、SAEレベル4の無人駐車サービスであるAVP(自動バレーパーキング)は、2022年以降、高級車の重要なオプション機能になると予想されている。
現在、関連する国際基準が起草されており、今後AVPの採用を促進することが期待されている。ただし、AVPシステムは車両の仕様によって異なるため、固定/非固定ルートや専用/公共駐車スペースなどの運転条件に関連するさまざまな制限があるほか、ワイヤレスネットワーク接続やトラフィックマーキングの包括性などの駐車場条件がAVPの実行可能性にも影響することが考えられている。
ネットワーキングの動向
モバイルネットワーク事業者は、世界中のさまざまなサービスのコアネットワークとして5G SAを積極的にリリースしており、主要都市での基地局の構築を加速し、ネットワークスライシングとエッジコンピューティングを介してネットワークサービスを多様化し、高度な品質保証を備えたエンドツーエンドネットワークを提供しようとしている。
2022年には、企業の需要に応えて、5G、大規模なIoT、および重要なIoTが交差するアプリケーションが出現することが予想される。スマートファクトリで使用されるライトスイッチ、センサ、サーモスタットなどのこれらのアプリケーションには、ネットワークエンドポイントとデータ送信の組み合わせが含まれる。特に、重要なIoTアプリケーションとしては、スマートグリッドの自動化、遠隔医療、交通安全、産業の自動化などが挙げられる。
また、将来的には、モバイルネットワーク事業者はエンタープライズ5Gアプリケーションを積極的に拡大する可能性がある。例えば、O2の5G-ENCODEプロジェクトは、産業用5Gネットワークの新しいビジネスモデルを模索し、VodafoneはMFM(Midlands Future Mobility)コンソーシアムと協力して自動運転車のネットワークをテストしている。
IoTの動向
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックをきっかけに出現した新しい社会は、非接触型デバイスとデジタルトランスフォーメーション(DX)の需要を推進し続けている。この進化の一環として、2022年のIoT開発は、5G、エッジコンピューティング、AIテクノロジーを組み合わせて、スマートな自動化と予測を目的として膨大なデータストリームから貴重な情報を抽出および分析する、CPS(サイバーフィジカルシステム)に焦点が当たる見込みである。
産業界では、デジタルツインがより広い範囲のアプリケーションに展開されることが期待される。3Dセンシング、VR、AR機能と組み合わせることで、IoTベースのメタバースは、現実世界を映し出す役割を担う可能性が高まり、最終的には、データ収集(センサを介した視覚、聴覚、環境データを含む)やデータ分析(AIプラットフォームとの統合)、データ整合性(ブロックチェーンを活用た)といった技術の革新にもつながっていくことが期待される。
衛星通信の動向
3GPPは最近、Release 17 Protocol Coding Freezeが2022年に実施されることを発表した。Release 17は、初めて3GPPがNTN(非地上ネットワーク)通信をリリースに組み込むという点で、モバイル通信業界と衛星通信業界の両方にとって重要なマイルストーンとなる。これまでは、モバイル通信と衛星通信は2つの別個の、独立して発展している業界だった。そのため、上流、中流、下流の2つの業界で働く企業も異なっていた。3GPPが次のリリースにNTNを含めた後、2つの業界はコラボレーションの機会を増やし、まったく新しいイノベーションを共同で作成する可能性がでてくる。LEO(低軌道)衛星の配備については、米国を拠点とするSpaceXが、すべての衛星オペレーターの中で最も多くの衛星を打ち上げる可能性が高い。
その他の主要な事業者としては、Amazon、OneWeb、Telesatなどがあり、NTNの一部として衛星通信が5Gを強化することが期待されているため、3GPPリリース17の重要なコンポーネントとなり、衛星通信市場が2022年以降、活性化していく見通しだという。
AR/VRの動向
新型コロナのパンデミックは、人々の生活や働き方を根本的に変えることとなった。企業ではDXを加速させたほか、新しいテクノロジーを既存の業務に採用する試みも増えた。例えば、AR/VRを用いた会議やリモートサポート、設計サポートなどが増加している。
一方、AR/VRサプライヤは、仮想コミュニティやオンラインゲームのさまざまなリモートインタラクション機能に焦点を当てた商品開発をしていくと見られ、それによりAR/VRハードウェア価格の下落と、さまざまなユースケースで採用増が進み、2022年のAR/VR市場はかなり成長が期待できるとTrendForceでは見ている。
さらに、市場はより現実的なAR/VRを追求し続けており、すでに視線追跡機能がオプションとして提供されたり、触覚フィードバックなども提供される可能性があるとしている。
第3世代半導体の動向
2025年から2050年にかけて主要各国の政府はICE(内燃エンジン)車両の段階的廃止を掲げており、これに伴い電気自動車(EV)の販売ペースが加速し、SiCおよびGaNデバイス/モジュールの普及率を高める見込みだという。
また、世界的なエネルギー転換に向けた動きと5G技術などの通信アプリケーションの急速な成長も、第3世代半導体の持続的な成長への期待につながり、SiCおよびGaNの市場成長を後押ししている。
そのため、Cree、II-VI、Qromisなどの第3世代半導体サプライヤも6インチ(150mm)ウェハを用いた製造では、長期的には供給不足になると見て、2022年には生産能力の拡大のみならず、8インチへの移行に向けた動きを加速していくことが予想される。TSMCやVanguard International Semiconductor(VIS)といったファウンドリもGaN on Siの8インチ製造を試みるなど、動きを見せている。