ソニーセミコンダクタソリューションズ(ソニー)は10月6日、エッジAIセンシングプラットフォーム「AITRIOS(アイトリオス)」のサービスを、2021年内に、日本、米国、欧州で開始すると発表した。

AIカメラなどを活用したセンシングソリューションの効率的な開発、導入を可能にするもので、サービスの第一弾として、AIデベロッパーやアプリケーションデベロッパー、カメラメーカー、モジュールインテグレーター、システムインテグレーターなどを対象に、パートナー企業を広く募集。エッジとクラウドを連携し、AIを活用したセンシングソリューションの普及、拡大を目指す。

  • エッジとクラウドを連携し、AIを活用したセンシングソリューションの普及、拡大を目指す

インテリジェントセンサーから収集した映像データなどをもとに分析を行い、課題解決を図るソリューションを、小売店や製造業向けに開発したり、ビル内の空調システムのインテリジェント化に伴う電力消費抑制ソリューションとして提供したりといったことを想定している。

AITRIOSでは、効率的な開発を実現するためのSDK(ソフトウェア開発キット)やツールの提供などにより、パートナーの開発を支援する「開発環境」、デベロッパーが開発したAIやアプリを登録し、パートナーやユーザーが、それをダウンロードして使用できる「マーケットプレイス」、ソリューションを効率的に導入することを支援する「クラウドサービス」を提供することになる。

ソニーセミコンダクタソリューションズ システムソリューション事業部の柳沢英太事業部長は、「センサーによるモノ売り事業に加えて、センシングという認識処理までを含むコト売りへと事業領域を広げていく。AITRIOSは、ハードウェアとソフトウェアの両輪による中期的な事業成長に向けた大きな一歩になる。パートナーによるAIカメラなどを活用したセンシングソリューションの効率的な開発を支援することが目的であり、まずは、ソニーの強みであるイメージセンサー領域で培った技術を用いて、AIに最適化したデータ出力に加え、エッジからクラウドまでを含めて、ソリューションを容易に構築するための各種機能を、ワンストップで提供する。パートナー企業は、ニーズにあわせた高性能なソリューションやアプリケーションの開発を効率的に行える」と述べた。

  • ソニーセミコンダクタソリューションズ システムソリューション事業部 柳沢英太事業部長

「AITRIOS」の名称には、「AI」に、「Solution」、「Social Value」、「Sustainability」の3つの「S」を示す「trio S3」を組み合わせた造語だという。

  • 「AITRIOS」の語源

ソニーは、2020年5月に、世界初となるAI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサー「IMX500」を商品化。ソニー独自のAI処理に特化したDSPを搭載したロジックチップに、画素チップを重ね合わせることで、エッジ環境での画像処理を実現。積層技術による電力効率の向上や、処理したあとのメタデータを送信することで、IPトラフィックの送信量を減らすことでネットワークプロセスにおける電力消費を減少。また、データトラフィック量を最大7400分の1に削減できるため、データセンターでの処理や保存、施設維持にかかる電力消費を削減でき、環境貢献にも期待できるという。

  • インテリジェントビジョンセンサー「IMX500」

「IMX500の発表以降、様々な業界に向けたセンシングソリューションの提供を推進してきており、そのポテンシャルを実感している。だが、ソニー1社でソリューションを提供するには限界がある。ユースケースの拡大には、パートナーとの連携が不可欠であると考えた」と、AITRIOSによるパートナー支援に乗り出した背景を語る。

開発環境では、IMX500で動作する小型のAIモデルや、AIを活用したセンシングアプリケーションの開発を支援する「AI/アプリケーション開発環境」、エッジ側のセンシングアプリケーションと連動し、クラウド側で動作を最適化するためのアプリケーション開発を支援する「クラウドアプリケーション開発環境」、IMX500を搭載したAIカメラの開発を支援する「AIカメラ開発環境」を用意。それぞれにおいて、SDKやツールを提供する。

マーケットプレイスでは、AIモデルやセンシングアプリケーションを登録し、パートナーやユーザーなどがダウンロードできる機能を提供。購入、販売時の決済機能も提供する。「数多くのAIやアプリが揃うことで、様々なニーズにあわせたソリューションが展開できるようになる。マーケットプレイスが活性化することで、さらに多くのパートナーの参画を生み出す好循環になることを期待している」という。

クラウドサービスでは、AITRIOSを利用開始するためのセットアップをQRコードの読み取りで簡単に実行できる「プロビジョニング」、マーケットプレイスで購入したり、自社開発したセンシングアプリケーションを、ソニー独自のAIコンバーターを介して、IMX500搭載のAIカメラに実装することができる「デプロイメント」、使用環境や条件の変化に応じて、AIモデルの再学習を行う「AIリトレーニング」、IMX500を搭載したAIカメラのソフトウェアのバージョン管理や、稼働状況、エラーログなどのモニタリングを行う「デバイスマネジメント」、AITRIOSが提供するAPIを経由し、外部のクラウドサービス上のアプリケーションとの接続や、ニーズに応じて機能を追加できる「接続機能」などを提供する。 今後は、IMX500だけでなく、ソニーの各種イメージセンサーを活用できるプラットフォームとしてAITRIOSを進化させる考えであり、センサーごとに異なる開発環境を統合し、多様なセンサーを活用したソリューションを効率的に構築できるように機能を拡充するという。

  • 「AITRIOS」の提供機能

米国では、IMX500により、カメラに搭載している顔検出や顔認証のAIモデルを遠隔地から更新し、認識精度を高めたり、商業施設やオフィスビルなどの会議室の人の占有率を検出し、それをもとに、空調システムが部屋を暖めたり、冷やしたり、換気したりといったことが可能になっているという。小売店では、リアルタイムでのデータ活用により、効率的な経営や売上げ向上、快適な店舗環境を実現。駐車場の検知に利用することで、それを利用者に通知し、安全で、快適な交通を実現できることも目指しているという。また、製造現場では、センシングデータをもとに、安全性を高めたり、在庫部品の確認などを高い次元で管理できるようになるという。「リアルタイム性が重要な現場ではデータの遅延が問題になるが、AITRIOSによって、そうした課題も解決できる」としている。

現在のイメージセンサー市場は、人の目で見るための画像を撮影するモバイル向けのイメージング領域が中心だが、中長期的に大きな成長が期待されるのが撮影画像から情報を認識するセンシング領域だという。

「AIの進化やIoTの普及、DXの加速により、イメージセンサーで撮像した画像からデータを抽出し、認識を行うセンシング技術を用いた新たな価値提供や、ビジネス課題解決へのニーズが高まっている。その一方で、スマホをはじめとして、家電、クルマなど、ネットワークに接続されるIoTデバイスが急拡大し、それを支えるクラウドに過度な依存が発生することが懸念されている。データ量の抑制、プライバシーへの配慮、消費電力の削減、レイテンシーの改善、サービスコンティニュイティの実現、セキュリティの強化などが課題であり、それを解決するために、クラウドとエッジが協働し、負荷を分散するシステム構築が注目されている」と指摘する。

また、一般的なIoTソリューションは普及段階にあるが、カメラで撮影した画像から認識処理を行うビジョンセンシングソリューションは、まだ広がっていないのが現状であり、その背景には、イメージセンサーが、他のIoTデバイスに比べて、取得するデータ量が圧倒的に多く、取り扱いが難しい点があげられるという。

「これがシステムインテグレーターなどにとって、参入障壁となっている。ソニーの技術によって、新たなプラットフォームを提供し、この障壁を取り除きたい。パートナーがソリューションを開発しやすい環境を作ることが、センシングソリューションの普及、拡大につながる」とする。

ソニーのイメージング&センシングソリューション事業では、ハードウェアに加えて、ソフトウェアにも力を注ぐ方針を明らかにしており、リカーリング型収益モデルの確立に取り組んでいるところだ。2019年6月には、システムソリューション事業部を発足し、イメージセンサー関連組織のソリューション機能を統合。ソニーが持つイメージセンサー技術とソフトウェア、AI処理技術などを融合し、イメージセンサー事業のバリューチェーン拡大に取り組んでいるという。現在、イメージング&センシングソリューション事業の売上高は2020年度実績で1兆125億円。直近では、イメージセンサーが占める割合は86%に達しているという。

「イメージセンサーが多様な産業における課題解決に向けて不可欠な存在となること、イメージセンサーが世界中のいたるところで、当たり前に使われている未来の実現に向けて、AITRIOSを継続的に進化させていく」と述べている。