九州大学(九大)と北海道情報大学(情報大)は10月5日、柑橘由来ポリフェノールが緑茶の抗肥満作用を増強することをヒト介入試験で明らかにしたと発表した。
同成果は、九大大学院 農学研究院の立花宏文主幹教授、情報大の西平順学長、トヨタ自動車の共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
日本人の健康長寿の理由は、多彩な食素材から構成される日本食が寄与していることが考えられており、これまで、特徴的な食品成分個々の生体調節機能に関する日本食の研究が行われてきた。しかし、多種多様な食品因子を同時に摂取することで期待される生体調節機能の「組み合わせ効果」については、まだよくわかっていないという。
緑茶は、そんな身体にいい日本食の1つだが、その生体調節機能を担う成分として、緑茶カテキンの一種「EGCG」があり、細胞表面にある受容体に感知されることで、さまざまな生体調節機能を発揮することが知られている。
九大の立花主幹教授らはこれまでの研究から、その受容体の発現量をビタミンAが増加させ、EGCGの生体調節機能を増強することを報告している。お茶を飲むのなら、ビタミンAも同時に摂取した方がより効果があるということだが、こうした食品や飲料成分の機能的な相互作用の関係は、「機能性フードペアリング」と呼ばれている。
さらに立花主幹教授らは、柑橘由来のポリフェノールがEGCGセンシングを増強することで、EGCGの生体調節作用(抗肥満作用、抗がん作用、抗アレルギー作用、筋萎縮予防作用)を向上させることを細胞実験や動物実験で明らかにしてきた。また、疫学研究において、緑茶と柑橘類の併用摂取は、がんの発症リスクを低下させることも示されていたという。
2020年初頭より世界に拡大した新型コロナウイルス感染症により、世界中で運動の機会が減り、年代を問わず肥満者の増加が懸念されるようになっている。こうした状況で緑茶を摂取することは、肥満予防の有効手段の1つとなり得ることが期待されるが、そのためにはカテキン類を高濃度に含む緑茶を摂取する必要があるという。
もし、ヒトの体内において、柑橘由来のポリフェノールがEGCGセンシングを増強するのであれば、カテキン類の濃度がある程度薄くても効果を期待できることから、今回の実験では、緑茶と柑橘類の併用摂取が、実際に効果を発揮するのか調べられることとなったという。
具体的には、2020年6月から10月にかけて、緑茶と柑橘由来ポリフェノールの併用摂取が、健康機能に与える影響を調べるヒト介入試験(被験者に参加してもらう実験)を実施。健康な日本人男女60名(30~75歳)を対象に12週間にわたって、プラセボである麦茶(プラセボ茶)もしくは、緑茶に柑橘類に多く存在するヘスペリジンに糖を結合させて水溶性を高めた物質「糖転移ヘスペリジン」を混合した茶(ペアリング茶)を摂取してもらい、比較を行った。
その結果、ペアリング茶を摂取した被験者では、プラセボ茶を摂取した被験者と比較して体重ならびにBMIの増加が抑制されることが確認されたという。さらに50歳未満の被験者では、体重増加およびBMI増加の抑制に加え、内臓脂肪、体脂肪率、血中LDL/HDL比の増加が抑制されたことも観察されたという。
研究チームは、今回の成果を基に、抗肥満作用を訴求した機能性表示食品の開発が期待されるとしているほか、緑茶カテキンと柑橘由来ポリフェノールのペアリングの効果は、緑茶カテキンの抗アレルギー作用や筋萎縮予防作用などにも発揮されることが動物試験で示されていることから、今後、こうした生体調節機能においてもペアリング茶の効果が期待でき、ヒトにおける実証研究が待たれるとしている。