順天堂大学は10月4日、ロコモティブシンドローム(ロコモ)予防のための運動介入研究の結果、血液中のタンパク質の一種で、栄養状態を示す「血清アルブミン」が低負荷レジスタンストレーニングの効果を予測するバイオマーカーになること、ならびに血清アルブミンの値が4.1g/dL未満の比較的低い値の場合、トレーニングしても筋肉の増量など、本来は得られるはずの効果が得られにくいことが明らかになったと発表した。

同成果は、順天堂大 COIプロジェクト室の沢田秀司博士研究員、同大学大学院 スポーツ健康科学研究科の内藤久士教授、同・町田修一教授らの研究チームによるもの。詳細は、高齢者の健康とヘルスケアを扱ったオープンアクセスジャーナル「BMC Geriatrics」に掲載された。

ロコモは、加齢により、筋肉や骨、関節、神経などの運動器の障害のために、移動機能の低下をきたした状態のことをいう。順天堂大は2013年度より、ロコモの予防・改善策を開発するプロジェクトに取り組んできており、その1つとして自体重トレーニングを中心とする低負荷レジスタンストレーニングのプログラム「ロコモ予防運動プログラム」を開発。その継続実施により、筋量や筋力、身体機能の改善が期待できることを示してきた。

しかし、こうしたトレーニングについて、同一のプログラムを提供しているにもかかわらず、得られる成果に個人差があり、その理由はよくわかっていなかったという。そこで研究チームは今回、一般的な健康診断でも評価項目となる血液成分に着目し、トレーニング開始前の血液成分の違いがトレーニングの効果に影響する因子についての分析を試みることにしたという。

今回の研究では、日本人69名(女性49名、男性20名、平均年齢69.4±6.5歳)を対象とし、「ロコモ予防運動プログラム」による運動介入が週2回の頻度で、12週間にわたって実施された。

運動介入期間の前後に、大腿部前面の筋厚を測定したほか、採血を行い、白血球数や赤血球数、総コレステロール、中性脂肪、ヘモグロビンA1c、空腹時血糖など、一般的な健診における評価項目である22項目についての検査を実施。運動介入前の血液検査結果に基づき、各項目の下位25%と上位75%の2群に分け、大腿部前面の筋厚におけるトレーニング効果を分析したところ、被験者全体では大腿部前面筋厚は10.6%の増加が確認されたという。

また、トレーニング効果に影響する因子の分析からは、血清アルブミンのレベル下位25%である4.1g/dL未満の群と、上位75%である4.1g/dL以上の群との比較より、血清アルブミンレベルが4.1g/dL以上の群においてのみ、大腿部前面筋厚の有意な肥大が認められたという(血清アルブミンは、3.5g/dL未満で低栄養と評価される)。この結果について、血清アルブミンがトレーニングの効果を予測するバイオマーカーになりうる可能性があると研究チームでは説明している。

また、血清アルブミンを増加させるためには栄養状態の改善が必要であり、特に肉、魚、卵、乳製品、大豆製品といった良質なタンパク質を摂取することが重要だという。

そのため研究チームでは、ロコモ予防運動プログラムのようなトレーニングによって筋量や筋力、身体機能の改善を促すためには、運動と栄養双方からのアプローチが重要であることが明らかになったとしており、今後も、順天堂大学COIプロジェクトでのスポーツ健康科学分野における研究成果を社会に広め、人々の健康寿命の延伸に貢献していくとしている。

  • ロコモ

    運動介入前の血清アルブミンレベルが筋肥大に及ぼす影響。運動介入前の血清アルブミンレベルが比較的低いグループ(4.1g/dL未満)では、筋力トレーニングで期待される効果が適切に得られないことが、明らかになったとした (出所:順天堂大Webサイト)