宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月4日、イプシロンロケット5号機の打ち上げ中止について、原因究明結果を報告した。同機は当初、3日前の打ち上げを予定していたが、当日、可搬型ドップラーレーダーのデータに異常が見つかり、約19秒前に緊急停止していた。今回、原因究明と対策が完了したことで、新たな打ち上げ日は10月7日に決まった。

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    イプシロンロケットプロジェクトマネージャの井元隆行氏(左)と、宇宙輸送技術部門鹿児島宇宙センター所長の川上道生氏(右)

打ち上げ当日に異常が見つかったのは、ロケットの追跡管制に使う可搬型ドップラーレーダーのデータ。このレーダーからは、100msごとに時刻情報と位置情報のセットがデータとして送られてくるのだが、時刻情報にのみ、異常なデータが混じっていることが確認された。このあたりのことは、前回の記事も参照して欲しい。

参考:イプシロンロケット5号機が打ち上げ中止、“魔の19秒前”に何が起きた?

当日の状況について、今回、JAXAからはより詳しい情報が明らかにされた。異常なデータが見つかったのは、打ち上げの24分前から3分前までの間で、合計8件。

イプシロンは内之浦宇宙空間観測所より打ち上げるが、飛行安全については種子島宇宙センターの総合指令棟(RCC)が担当する。可搬型ドップラーレーダーのデータも、種子島に送信されていた。

通常、内之浦で送信してから種子島で受信するまでの時間遅れは0.01秒程度だったが、レーダー側の時刻情報(観測時刻)と種子島側の受信時刻から時間差を計算すると、この8件では、-2,580秒から+720秒と、通信遅延としてはあり得ない数字になっていた。+720秒というのは、未来の時刻であり、明らかにおかしい。

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    種子島RCCで受信したデータの例。赤枠のところで、時間差が2,580秒になっている (C)JAXA

可搬型ドップラーレーダーには、電波を出してロケットの位置を観測するレーダー部のほか、GPS信号から正確な時刻を取得する装置があり、レーダーデータ(位置情報)と時刻データを処理部で合わせ、出力する仕組みになっている。

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    可搬型ドップラーレーダーの構成。観測時刻はGPSで取得している (C)JAXA

データを事後解析したところ、レーダーデータは健全であることが分かった。また打ち上げが延期された同1日の夜、レーダーの運転を継続させて各機器間のデータを監視したところ、時刻装置から出力される時刻データに同様の異常が見つかり、原因の場所をここより上流側の機器に絞り込んだ。

そして装置の再点検を行ったところ、GPS受信アンテナのケーブルを時刻装置に接続するコネクタ部分で、緩みが見つかった。ケーブルに軽く触れると、時刻情報が正常になったり異常になったりする状態だったという。事象も再現されており、原因はこのコネクタの緩みによる接触不良と特定された。

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    写真は時刻装置のインタフェース部分。点線の円内が緩んでいた場所だ (C)JAXA

GPS受信アンテナのケーブルはBNCコネクタ、時刻装置側の端子はSMAコネクタのため、間にコネクタ変換器を使用していたという。接続場所としては、アンテナケーブルとコネクタ変換器の間(1)と、コネクタ変換器と時刻装置の間(2)の2カ所があるが、緩みが確認できたのは(2)の側だ。

JAXAによると、輸送時には(1)側のみ外し、(2)側は常時接続された状態だったという。輸送後に再接続するとき、もちろん(1)側については緩みがないか確認していたものの、(2)側については、緩みの確認ができていなかった。定期的な確認も実施されていなかったそうで、必要な手順として見落とされていた形だ。

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    コネクタ部の詳細。コネクタ形状が違うため、変換器が使われていた (C)JAXA

(1)側を脱着する際、その作業の影響で(2)側が緩んでしまう可能性はある。輸送時の振動で少しずつ緩むことも考えられる。そしてコネクタが緩んだところに、ケーブルの重さによる負荷がかかり、接触不良が起きた。これがJAXAによる要因の分析結果である。

対策として、コネクタを確実に接続したほか、ケーブル自重による負荷がコネクタ部にかからないよう、上から紐で荷重を支える処置を施した。さらに、可搬型ドップラーレーダーのほか、高速度カメラなど、同様に種子島から輸送した設備のコネクタについても、全数(2~300箇所)を再点検し、異常が無いことを確認した。

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    これらの対策を実施し、不具合が再発しないことを確認した (C)JAXA

対策が完了したことで、新たな打ち上げ日は10月7日に決まった。延期が長引くと、同25日に控えていたH-IIAロケット44号機の打ち上げに影響が出る恐れがあったが、最低限の遅れにとどめたことで、「今のところ影響は無い」(JAXA宇宙輸送技術部門鹿児島宇宙センター所長の川上道生氏)そうだ。

気になるのは天候だが、現時点での予報では、7日は曇時々晴で問題は無さそう。ただ現地での見学はすでに申し込みが締め切られており、新型コロナウイルス対策として町外からの見学も断っている状況なので、注意して欲しい。現地での見学は控え、今回はオンラインの中継で見るようにしよう。

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    リハーサル時のイプシロンロケット5号機 (C)JAXA