宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月1日、イプシロンロケット5号機を9時51分21秒に打ち上げる予定だったが、地上局側に問題が見つかったため、約19秒前に手動で緊急停止させた。新たな打ち上げ日は未定。JAXAは同日13時より、記者会見を開催し、打ち上げ中止の理由について詳しく説明した。
まだ原因について詳しくは分かっていないものの、現時点で明らかになっているのは、内之浦宇宙空間観測所の可搬型ドップラーレーダーで問題が発生したということだ。これは、ロケットが正常なルートを飛行しているか、初期の追跡で使用しているものである。
ロケットがいつどこにあるか確認するため、このレーダーからは、100msごとに時刻情報と位置情報のセットがデータとして送られてくるのだが、この時刻情報に、一時的に異常が確認されたという。通常であれば、時刻情報はシーケンシャルになる。しかし、未来の時刻が混じったり、明らかにおかしいものまで見つかったそうだ。
位置情報が正しかったとしても、誤った時刻情報が混じっていれば、もしロケットが正常に飛行していても、警戒区域外に出るように見えてしまう恐れがある。ロケットは自分自身で位置を把握しており、飛行に問題はないものの、最悪のケースとしては、安全のため指令破壊することもあり得る。
時刻情報の異常が見られ始めたのは打ち上げの10数分前だったという。事象が改善されるかどうかモニターし続けたものの、改善されなかったため、射場系のメンバーが中止を判断し、打ち上げの約19秒前に緊急停止ボタンを押した。
JAXA宇宙輸送技術部門鹿児島宇宙センター所長の川上道生氏によれば、同様の現象は「これまで起きたことは無かった」という。事前のリハーサルでは正常に動作しており、レーダーを昨晩起動したときにも異常は無かった。しかし、よりによって、この打ち上げ直前のタイミングで問題が発生してしまった。
問題が起きた可搬型ドップラーレーダーは、イプシロン初号機のときに導入したもの(2013年度運用開始)。デンマーク製で、一部をJAXA向けにカスタマイズ。全長6m程度のトレーラーになっており、自動車で牽引することができる。アンテナは平面型で、畳サイズのものを送信用と受信用に2枚搭載している。
可搬型を導入したのは、種子島宇宙センターと内之浦宇宙空間観測所で共有し、コストを削減するためだ。普段は種子島で保管してあり、イプシロン5号機で使用するため、内之浦には先月中旬くらいに移動させたそうだ。
新たな打ち上げ日については、現時点で未定。「原因が何か特定して、どう対策するかにかかっているので、現状ではめども言えない」(川上氏)とのことだが、このレーダーは種子島宇宙センターでも使うため、この問題を解決しないことには、H-IIAロケットを打ち上げることもできない。
直近では、H-IIAロケット44号機が10月25日に打ち上げを予定しており、船での移動も考えると、時間的な余裕はあまり大きくない。H-IIA側に影響を出さないようにするため、なるべく早く対処したいところだろうが、エラーの再現性が無かったりすると、原因追及に時間がかかる可能性もある。
現象としては全く異なるものの、イプシロンは初号機でも、打ち上げの19秒前に停止していた。今回も19秒前であったことについては「たまたま」(イプシロンロケットプロジェクトマネージャの井元隆行氏)とのことだが、初号機の再打ち上げには、2週間半ほどの期間を要していた。
なお、今回問題が発生したのは地上設備だけで、ロケットや衛星に異常は無い。レーダーの問題だけ解決できれば、関係機関と調整し、すぐ再打ち上げすることは可能だ。ちなみに何日間の延期になるかはまだ分からないものの、打ち上げ時刻については、9時51分21秒で変わることはないそうだ。