マイクロソフトは9月30日、同社のヘルスケア分野の取り組みを説明した。日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 医療・製薬営業統括本部長 大山訓弘氏によれば、新型コロナウィルスの影響で医療業界のオンラインを前提とした取り組みが進み、オンライン診療の認知も進んだという。
一方で、国内の電子カルテデータの医療機関同士の共有については、海外に比べ遅れている。その理由について大山氏は、「日本は電子カルテの普及の優先度が高く、データを共有することを前提とした仕様になっていなかった。また、オンプレミスのデータをクラウドにアップする際のコストやセキュリティの問題も出てきた。メーカーが異なると連携できない点もある」と説明。
ゲストで登壇した国立国際医療研究センター 医療情報基盤センター センター長 美代賢吾氏は、電子カルテを標準化していくメリットが各医療機関はない(短期的に)、医療そのものの標準化が進んでいない、日本は標準化を進めていく意識が海外に比べ低いなどの要因を挙げ、今後は、全体を俯瞰してリードしていく組織(国)が必要だとした。
大山氏は、マイクロソフトのヘルスケア分野における立ち位置について「われわれはPHR(Personal Health Record:個人の医療や健康データ)、EHR(Electronic Health Record:電子健康記録)において、全体を俯瞰したヘルスケアプラットフォームを提供していきたいと思っている。我々自身が電子カルテのビジネスをやる、医療の認証に直接触れるような部分はやるといったことはなく、そういうものを提供しているパートナーの方と一緒にヘルスケアソリューション開発をしていきたい」と語り、顧客やパートナーと競合するようなビジネスは考えていない点を強調した。
そして「データの活用では、診療情報だけでなく、個人の生活習慣や健康情報を収集しながら、病気になりにくいことも含めて取り組んでいくが重要だ」と語った。
マイクロソフトでは、2020年5月に初の特定業種向けクラウドサービス「Microsoft Cloud for Healthcare」を発表した。今後、日本語対応版もリリースされる予定。
このソリューションは、「ヘルケアサポートソリューション」(ヘルスケアソリューション開発の支援)、「オンラインを前提とした機能」(オンラインを活用したコミュニケーションの促進)、「医療データとの連携」(世界標準であるHL7 FHIRをAPIベースで医療データを取り込み、今後の利活用を促進)という3つの領域をサポートするという。
具体的には、患者の診療データ、病院以外の健康データを集約し、患者とのエンゲージメント向上を図ること、医療従事者のコラボレーションの強化、暗黙知の見える化、分析の実現(分散されている医療データを統合し、分析を行い見える化)を行うという。
すでに具体的な事例も出ており、米電子カルテベンダーのEpic社のオンライン診療システムと連携し、Teamsによるオンライン診療予約やオンライン診療を実施しているほか、電子カルテデータとの連携もできているという。
国内では、Integrity Healthcareのオンライン診療システムとTeamsが連携しており、予約の時間がきたらカレンダーから患者さんを選択、患者さんの詳細画面が表示され、「ビデオ通話」をクリックすると、Teamsが起動。オンライン診療ができるようになっているという。
また、FUJITSU 電子カルテシステム「HOPE LifeMark-HX」では、ニューノーマルオプションとしてTeams連携を提供する。
そのほか、同社の取り組みでは、米Microsoftが今年の4月に買収を発表したNuance Communicationsの対話型AIを利用し、患者との会話から構造化されたデータを自動作成し、カルテデータの一部として保存する取り組みを行っているという。