東京工業大学(東工大)は9月29日、可変構造を利用した姿勢制御・軌道制御技術「VSAC」の軌道上技術実証を目的とした、50kg級の技術実証超小型衛星「ひばり」を開発したことを発表した。
東工大 工学院機械系の松永三郎教授、同・中条俊大助教、東工大 理学院物理学系の谷津陽一准教授、同・河合誠之教授、日本の半導体メーカーであるエイブリックの共同研究チームによって開発された。
「ひばり」は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的衛星技術実証2号機の実証テーマとして採択されており、JAXAのイプシロンロケット5号機により10月1日に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられる予定。近地点高度547km、遠地点高度565km、降交点地方太陽時9:30の太陽同期軌道に投入される計画となっている。
イプシロンロケットからの分離後、太陽電池パドルが展開されるまでがクリティカルフェーズ運用となる。その後はシステムの健全性の確認が行われ、姿勢制御実験や地球画像を利用した姿勢決定実験、紫外線天体観測を順次開始する計画だ。ミッション期間は1年が予定されている。
「ひばり」は紫外線による観測を行うが、搭載される紫外線カメラ「UVCAM」は、エイブリックとの共同開発により実現したもので、地表ではオゾン層などに阻まれて捉えることのできない波長域の紫外線観測を行うことを可能とする。
UVCAMの大きさは、118mm×65mm×60.3mmで、重さは433.5gとなっている。紫外線は物質中で吸収されやすく、従来のシリコンセンサではその検出が困難であることから、UVCAMには紫外線高感度・高耐光性技術を用いたCMOSイメージセンサが採用されたという。同センサは、シリコンフォトダイオードの表面高濃度不純物層の構造・形成方法やパッシベーション膜の透過特性を工夫することで、表面照射型センサでありながら、可視光から190nmまでの紫外線に感度を持たせることが可能となっている。
今回は紫外線での天体観測のための基礎実験として、高度550~565kmの宇宙空間から、300~340nmの近紫外線帯にて、高層大気からの輝線放射や高緯度地域上空のオーロラからの紫外線などを計測する計画だという。
このほか、VSAC(Variable Shape Attitude Control)を実現するためのモーターで駆動できる4枚の可動太陽電池パドルシステム(VSAC装置)を用いたパドルの開閉状態を小型カメラで撮影するとともに、スタートラッカーや可視光望遠鏡と連携した精密姿勢誘導制御実験を行うとしているほか、地球画像を用いた3軸姿勢決定実験や、Globalstar送信機「STINGR」を用いた地上とのリアルタイム通信の実証実験も行われる予定だという。