名古屋大学(名大)は9月28日、単結晶の遷移金属カルコゲナイト「Ta2PdSe6」が、約-260℃という低温において、ほかの熱電発電物質と比較して、1Kの温度差で圧倒的に巨大な電流に変換可能な「熱電半金属」であることを発見したと発表した。

同成果は、名大大学院 理学研究科の中埜彰俊助教、同・寺崎一郎教授、明治大学大学院 理工学研究科の安井幸夫教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、エネルギーを題材とするオープンアクセスジャーナル「Journal of Physics:Energy」に掲載された。

金属や半導体などの物質の両端に温度差をつけると、「ゼーベック効果」によって温度差に比例する電圧が発生することが知られており、そうした温度差をつけた物質を含んだ閉回路を作れば電流が流れるため、熱エネルギーを電気エネルギーに変換(熱電変換)することが可能であるため、持続可能社会の実現に向けて活用が期待されている。

熱電変換に優れる物質とは、温度差によって生じる電圧が大きいこと(ゼーベック係数が大きい)、ならびに電気抵抗率が小さいこと、の2つの指標が挙げられるが、ゼーベック係数と電気抵抗率はトレードオフの関係にあるため、大きなゼーベック係数と小さな電気抵抗率を両立するのは、これまで困難であると考えられてきており、それを打ち破る新素材の探求が世界中で進められているという。

研究チームもそうした探索を行ってきており、今回、正孔と電子の両方が電荷を運ぶ半金属の1種「Ta2PdSe6」を発見。その電気抵抗率を調べたところ、絶対温度20K(約-253℃)付近で10-6Ωcmという、単体金属に匹敵するような低い電気抵抗率を確認したほか、ゼーベック係数も単体金属の数十倍となる約40μV/Kを示すことを確認したという。

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    (a)Ta2PdSe6の結晶構造。(b)育成された単結晶試料 (出所:名大プレスリリースPDF)

詳細分析を行ったところ、Ta2PdSe6のキャリア濃度は単体金属の1/100程度であり、正孔の動きやすさ(移動度)が電子より100倍以上大きいことが判明。この動きやすい低濃度の正孔が、高いゼーベック係数と低い電気抵抗率を両立させている鍵であると考えられるとしている。

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    (a)電気抵抗率の温度依存性。(b)ゼーベック係数の温度依存性 (出所:名大プレスリリースPDF)

また、体積1ccの物質に温度差1Kをつけた際に流れる電流の量を表すペルチェ伝導度を調べたところ、Ta2PdSe6は、熱電データベースから得られたさまざまな物質と比較して、室温付近でもトップクラスの特性であることが確認されたほか、10K(約-263℃)においてはこれまでの物質とは比較にならない100A/cmKという巨大な値を示すことが確認されたという。

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    Ta2PdSe6とほかの熱電物質のペルチェ伝導度(300K)の比較 (出所:名大プレスリリースPDF)

今回の成果について研究チームでは、10~20Kで冷却しつづける必要はあるが、小さな空間においてわずかに温度差をつけるだけで大電流を供給することが可能になるため、例えば超伝導コイルと組み合わせることで、従来は大きな電流源が不可欠だった超伝導磁石を小型化することができ、医療や工学、基礎科学などの幅広い分野での技術革新につながることなどが期待されるようになるとしている。