千葉工業大学(千葉工大)は9月28日、同大学の惑星探査研究センター(PERC)が開発した超小型衛星2号機である宇宙塵探査実証衛星「ASTERISC(アスタリスク)」が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的衛星技術実証2号機の1機として、イプシロンロケット5号機により2021年10月1日に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられる予定であることを発表した。

古代ギリシャ語で「小さい星」という意味を持つアスタリスクの目的は、独自に開発された膜状の粒子観測装置(ダストセンサ)により、その膜にぶつかった宇宙塵と微小なスペースデブリ(宇宙ごみ)を観測することで、同時に打ち上げられる9機の衛星のうち、3番目にイプシロンロケットのPBS(Post Boost Stage)から分離され、高度560kmの地球周回円軌道に投入される計画だという。

軌道投入後、最初のアスタリスクとの通信可能となる時刻は、打ち上げ当日の20時31分22秒~20時43分40秒ころになる見込みで、この時刻から実際の運用開始となる予定だという。

運用においては、千葉工大局からアスタリスクにコマンドアップリンク(指令)電波が送信され、その指令に応じて衛星から地上局にテレメトリダウンリンク(観測データなど)電波が送信される。これら一連のアスタリスクの運用は、衛星通信用パラボラアンテナ含めた千葉工大内の施設のみで実施できる点も同衛星の運用の特徴だという。アスタリスクは1日2回程度の可視が予定され、約3年間運用を実施する計画となっている。

軌道投入後のアスタリスク運用のシーケンスとしては、軌道投入後のオート制御の初期シーケンスによって、衛星側面に設置された膜型ダストセンサ(8cm×8cm)を用いたミニマム観測ミッションを開始。その後、1か月~数か月程度の初期運用において、ミニマム観測と並行して、衛星の健全性の確認が行われ、健全性が確認された後、地上からのコマンドによって、展開型の膜型ダストセンサ(30cm×30cm)を展開し、ノミナル観測ミッションの始動となる。

今回観測対象とされている1つである宇宙塵は、太陽系史のさまざまなプロセスに関与してきたと考えられている、貴重な物質とされるが、非常に小さいため、地上からの観測はほぼ不可能なほか、隕石のように、地上での回収も難しく、かつ大気の抵抗で効率的に減速されるため発光するまでには至らずに溶融してしまうなどの課題があるため、直接宇宙空間で観測する必要があると考えられている。

PERCでは、大面積の膜型ダストセンサを用いて、宇宙塵の性質(分布・量・軌道など)を調べ、最終的には惑星の進化や生命の起源に宇宙塵がどうかかわったのかを明らかにしたいと考えているとする。

一方の微小デブリだが、大きいデブリであれば地上からの観測によってカタログ化し、追跡を行いやすいが、10cm以下の微小デブリはカタログ化されないため追跡が難しく、高速で飛行していることには変わりはなく、人工衛星や国際宇宙ステーションなどに衝突すれば大きな被害を発生させる可能性が指摘されており、何らかの対応策が求められている。

実際、そうした微小デブリの総量は、1~10cmクラスが約90万個、1cm未満は約1億3000万個などと見積られているものの、正確なところはわかっていない。そのため、軌道上で直接観測をする必要があるが、宇宙塵と微小デブリともに軌道上で観測するための課題は、いずれも直接観測をするにしても、宇宙空間の広さに対して数が少ないということだ。

そうした宇宙塵や微小デブリを効率よく捉えるにはできるだけ大きな検出面積のダストセンサを用いる必要があるが、従来方式をそのまま大型化していたのではコストがかかりすぎるという課題があったという。そこでPERCでは、容易に大面積化が可能な粒子観測装置として、新たな方式である膜状のダストセンサシステムを独自に開発。具体的には、ポリイミド製の膜に圧電素子を接着させ、粒子が膜に衝突することで発生する弾性波を電気信号として捉え、独自の信号処理を行うことによりリアルタイムで粒子を観測するという仕組みで、粒子が膜に衝突しさえすれば検出できるため、膜の面積を大きくするだけで大面積のセンサを容易に実現できる点が特徴だとしている。

また観測と並行して、東北大と宇宙実績の豊富な国内メーカーとともに共同開発された国産キューブサットバスシステムの軌道上実証も行われる予定だという。高度なミッションを行うに足る性能を持つ同バスシステムの軌道実証により、PERCでは将来的には深宇宙探査を含む挑戦的なミッションにつなげることも考えているとしている。

  • アスタリスク

    アスタリスクの外観。(左)展開前の外観。前面のオレンジ色の膜が8cm×8cmの膜型ダストセンサ。(右)30cm×30cmの膜型ダストセンサ(左方向に広げられたオレンジ色の膜)展開後の外観 (出所:PERC Webサイト)