東北大学は9月27日、新たに開発した希少金属のコバルトを含まない(コバルトフリー)正極による5V級の高電位で100回以上の安定な充放電サイクル特性を実証したことを発表した。
同成果は、東北大 多元物質科学研究所の小林弘明助教、本間格教授らの研究チームによるもの。詳細は、エネルギー変換と貯蔵に関連する幅広い分野を扱う学際的な学術誌「ACS Applied Energy Materials」に掲載された。
リチウムイオン電池の活用分野が拡大しているが、その一方で用いられる希少金属のサプライチェーンリスクが顕在化しつつある。正極に用いられるコバルトも希少金属であり、しかも鉱石はコンゴ1国だけで世界の50%以上を生産し、精錬した地金も60%以上が中国で生産されるため、そうしたリスクにさらされる可能性が高いと考えられ、コバルトフリーで低コストの金属資源を用いた正極材料の開発が求められるようになっているという。 コバルトフリー化を実現するための選択肢の1つは、スピネル構造のニッケルマンガン酸化物「LiNi0.5Mn1.5O4」(LNMO)を適用することだが、LNMOの問題点として、動作電圧が4.7Vと、現行のリチウムイオン電池の3.7Vと比べ高電圧であるため、電解液などの分解が生じて充放電サイクルが困難になるという点があったという。
そこで研究チームは今回、高電位正極の表面を耐電圧性の高い固体電解質でコーティングすることにより、劣化を抑制する技術開発を試みることにしたという。
具体的には、コーティング剤としてLi3PO4やLiNbO3などが知られているが、今回はより耐電圧性の高い固体電解質として、フッ化物を選択することにしたという。その結果、十分なリチウムイオン伝導性、耐電圧性、化学的安定性を有する「Li3AlF6」(LAF)が開発され、LNMO表面に薄膜コーティングを施したコアシェル構造型正極材料が作製され、実際のリチウムイオン電池に適用してみたところ、5V級の高電位で100回以上の安定な充放電サイクル特性を実証したという。
LAFは量子計算によると、LNMOに対し十分な耐高電圧性・リチウムイオン導電性・化学的安定性を有することが示されているという。コーティングがされていない正極表面では、高電圧動作により生じた電解液の分解物が徐々に堆積し、電気抵抗が増大し劣化してしまうが、コーティングを施した正極では電解液の分解が抑えられたため、高いサイクル特性が示されたと考えられるとしている。
また、今回の研究で開発されたフッ化物固体電解質は、リチウムイオン伝導性と耐電圧性を兼ね備えているため、5V級リチウムイオン電池のほか、コバルトフリー正極材料、全固体電池などのポストリチウムイオン電池への応用が期待されるとするほか、フッ化物固体電解質の薄膜コーティングそのものもさまざまな正極に適用可能であり、LAF以外のフッ化物も合成できるため、幅広い正極材料開拓が可能だとしている。そのため、材料開発によりフッ化物固体電解質のリチウムイオン伝導度を向上させれば、車載電池の本命である全固体電池の高エネルギー密度化も期待できるとしている。