大阪大学(阪大)と東京工芸大学(工芸大)は、切り紙加工を施したセルロースナノファイバー(CNF)製フィルムが、空気対流によって放熱する柔軟な冷却システムとして活用可能であることを明らかにしたと発表した。
同成果は、阪大 産業科学研究所の上谷幸治郎助教、大分工業高等専門学校の常安翔太助教、工芸大 工学研究科の佐藤利文教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、材料科学とその関連分野を扱う学術誌「NPG Asia Materials」に掲載された。
従来、電子機器の放熱には金属製のヒートシンクが主に用いられ、それでも間に合わない場合はファンを付けるといった手法が採用され、設計自由度を高めることは難しかった。
今回、研究チームが注目したのが、ヒートシンクの周期的な3次元フィン構造が2次元フィルムへの周期的な切れ込みと類似しているという点で、伝統的な切り紙工芸で七夕飾りとしても知られる「網飾り」パターンに対して空気を対流させることで、放熱性が向上するかどうかの実証を行うことにしたという。
具体的には、熱伝導性の比較的高いホヤ殻由来CNF製フィルムにレーザーカッターで切り紙加工を施し、放熱性の検証を実施。その結果、切り紙がなく無風状態では152℃まで上昇したフィルムの温度が、切り紙切片における強制対流下では50℃まで冷却され、熱抵抗が1/5に低下することが確認されたという。
また、切り紙の延伸・展開による開口部の大きさによって通過風速が決定され、風速に伴って放熱性能も制御されることも判明したほか、用いるフィルム材料の熱伝導率も放熱性に影響し、風速が同じ場合、熱伝導率が高いフィルムの方が高い放熱性能が示されたともする。
さらに、熱伝導率がセルロースより低い汎用性プラスチック・フィルムについても評価を行ったところ、切り紙と対流を組み合わせることで、0.56W/cm2の発熱量であれば50℃程度の実用温度範囲まで冷却できることも明らかになったという。
これらの成果を踏まえ、CNF製フィルムを基材として無機蛍光粒子への電界印加により発光する平面光源である分散型EL素子を形成し、エレクトロニクスに実装した状態で放熱性能の確認が行われたところ、網飾りパターンの形成により、延伸展開しても発光し続け、空気対流によって約35℃まで冷却されることが実証されたとした。
なお研究チームでは、多彩な切り紙構造は、バラエティに富む放熱構造が設計可能となるため、次世代ペーパーエレクトロニクスの省エネ、長寿命化、安全性向上などに役立つと期待されるとしている。