京都大学(京大)と東京農工大学(農工大)は、発見以来約40年にわたって謎のままだったビタミンDの最終代謝物の1つである「ビタミンDラクトン」は、脂肪酸のβ酸化を触媒する酵素「HADHA」と結合して代謝物「カルニチン」の生合成を抑制することで、重要なエネルギー源である脂肪酸の代謝を抑制する役割であることを見出したと発表した。
同成果は、京大 化学研究所の上杉志成教授、農工大 大学院工学研究院の長澤和夫教授、帝京大学薬学部の橘高敦史教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、化学と生物学を題材にした学術誌「Cell Chemical Biology」に掲載された。
ビタミンDは、日光を浴びることで体内で合成(生合成)され、骨代謝調節、筋肉、免疫調節などで重要な働きをする化合物として知られているが、その主要な最終代謝物の1つであるビタミンDラクトンは、約40年前に確認されて以降、生物学的役割が不明のままだった。また、ビタミンDの生物機能と日光により生合成されることの関連性についてもよくわかっていなかったという。
そこで研究チームは今回、ビタミンDラクトンの生体内での役割を明らかにすることに挑戦。その結果、ビタミンDラクトンはミトコンドリア内で長鎖脂肪酸のβ酸化を触媒する酵素であるHADHAと選択的に結合することが判明したという。
しかし、ビタミンDラクトンは、HADHAと相互作用するにも関わらず、HADHAの酵素活性には影響しないことも判明。そこでさらなる調査が行われ、HADHAに結合することで、ビタミンDラクトンはHADHAと複合体を形成している脂肪酸をミトコンドリアへ輸送するために必要な内因性代謝物「カルニチン」の生合成に不可欠な酵素である「トリメチルリジンジオキシゲナーゼ」(TMLD)を解離し、その酵素活性を不活性化することを確認したという。
これらの結果からビタミンDラクトンは、HADAHとの結合を介してカルニチンの生合成を抑制し、重要なエネルギー源の1つである脂肪酸の代謝を抑制することを示すものであると研究チームでは説明する。
ビタミンDラクトンは生体内に比較的高濃度で存在すると考えられているが、脂肪酸を体内に溜め込む働きがあることが確認されたことから、生合成されるビタミンDの量と日光の曝露量の関係を踏まえ、日照時間が短くなると、生体内ではビタミンDの量に比較して、ビタミンDラクトンの量が相対的に多くなることが考えられ、それが、季節で日照時間が大きく変わる高緯度地域に生息する哺乳類に対し、季節で脂肪酸代謝を変化させる、たとえば冬眠などへの準備(脂肪酸を溜め込む)としての役割も考えられるとするともしており、今後、ビタミンDラクトンの冬眠現象などの新たな視点での研究が期待されるとしている。