スポーツテック企業のユーフォリアは9月27日、オンラインで記者説明会を開催し、スポーツ科学領域における研究開発を行う組織として「ユーフォリアスポーツ科学研究所(EUPHORIA Institute of Sports Science:EIS)」を設立すると明らかにした。オンラインで記者説明会を開催した。
プロチームを中心に国内外1700のチームが導入
同社は、アスリートのコンディション管理、ケガ予防のためのスポーツ領域に特化したSaaS型データマネジメントサービス「ONE TAP SPORTS(ワンタップ・スポーツ)」を開発・提供する2008年に創業したスポーツテック企業だ。
ラグビーをはじめ、日本代表競技数は26、利用スポーツ競技は70、利用アスリート数は7万人、利用スタッフ1万人と国内外のプロチームを中心に約1700のチームに導入されている。国内では、Jリーグが56チーム中47チーム、ラグビートップリーグは16チーム中16チーム、Bリーグが全チーム、NPBは12球団中7球団が活用している。
冒頭、ユーフォリア 代表取締役の橋口寛氏は「スポーツにおけるテクノロジーの利用が拡大し、国内では2017年~2024年における年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は46.3%となっている」と述べた。
同氏によると、スポーツテックは多面体であり、大きくは目的、場所、種目の「活用」、センシングや解析、提示(映像、音響生成など)の「対象技術」、対象技術に伴う「技術課題」の3つに分けられる。
同社は対象技術のうち、解析と提示にフォーカスして事業展開し、センシングで得られた多様なデータを包括的に取得する取り組みを進めている。
これまでの同社の取り組みとしては、ラグビー協会とワンタップ・スポーツを活用して日本代表選手の体調管理支援、元名古屋大学教授の早野純一郎氏と心拍変動(HRV)解析によるアスリートのコンディション方法探索のための共同研究、東京大学工学系研究科特任研究員の中村仁彦氏と同大社会連携講座「ヒューマンモーション・データサイエンス」において、3年間の共同研究契約を締結しており、投球動作撮影による特定部位にかかる負荷の定量化、二次元カメラ映像から怪我リスク判別技術の開発を行っている。
もちろん、こうした取り組みを通じてスポーツ界に寄与しているのは事実だが、一方で課題も抱えているという。橋口氏は「トップスポーツでは当たり前のスポーツ科学にもとづく知見が一般には広く知られておらず、知っていれば起きなかった問題が起きている。また、トップスポーツと育成・一般スポーツの間、企業と企業の間など多くの領域において大きな分断が存在する」と話す。
そして、同氏は「当社は、こうした問題を視座せず、自社のみの利益を優先することなく、専門領域の枠を超えた取り組みに挑戦したいと考えている。スポーツ科学×テクノロジーの最先端で得られる発見を加速し、その知見を幅広い領域へと広げていくために、EISを立ち上げることにした」と説明する。
トップアスリートの知見を社会還元
アスリートやトップスポーツを対象に研究開発を行うことは、ヒトの潜在的な機能・能力を研究することであり、それら活動から得られる成果はスポーツ界のみに閉じて還元されるべきではなく、広く一般に健康や能力開発に生かされるべきだという。最終的には社会システムへの実装を目指し、研究開発活動を行う。
初期の研究テーマとしては、スポーツ外傷・障害発生のメカニズム解析による予防・予知や身体的リカバリー理論など、アスリートやスポーツ界での活用が見込めるが、これらの研究内容は将来的に健康寿命の引き上げ、子どもたちの能力開発、企業の健康経営・生産性向上、などといった社会の課題解決にもつなげていくという。
EISはヴァーチャル研究所と位置付けているため、現状では物理的な施設は整備せず、各種データを用いて、国内の大学教授、社内研究員・サイエンティストなどのリエゾン研究員が、外部研究機関や企業と連携しつつ研究活動を行い、その成果をユーザー価値の向上につなげる。また、ユーフォリア研究倫理審査委員会(IRB)が研究に関して倫理上の問題の有無を判断する。
EIS 所長に就任した、関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科教授の富田欣和氏は、今後の方向性について「スポーツサイエンスの可能性が広げられると考えており、特にトップアスリートの知見をどのように活用していくのか、という意味では非常に可能性がある。ワンタップ・スポーツのリソースを使うことで知見を活かせば社会に貢献でき、単に特定の利益に資するわけではなく、社会に還元していくことが使命だ。多様なメンバーが揃っており、インターディシプリナリーアプローチ(さまざまな分野の人材が協力すること)により、横ぐしで創出される新たな知恵を生み出していきたい。そのようなことから、初期は各研究員が持つ深い専門領域をつなげるための方法論を構築し、その後は産学連携を推進することで社会への還元が積極的かつ効果的に行えると考えている」と力を込めていた。
今後、リエゾン研究員の体制も順次拡充し、現在も進めている企業や大学・研究機関との共同研究プロジェクトを加速していく考えだ。