理化学研究所(理研)、ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー、JEOL RESONANCE、科学技術振興機構(JST)の4者は9月24日、開発した高温超電導接合を実装した核磁気共鳴(NMR)装置を2018年から400MHzの磁場で約2年間の「永久電流」運転を行い、磁場の精密測定を続けた結果、高温超電導接合が長期間にわたって安定的な永久電流を維持できることを実証したと発表した。
同成果は、理研 生命機能科学研究センター 機能性超高磁場マグネット技術研究ユニットの柳澤吉紀ユニットリーダー、同・構造NMR技術研究ユニットの山崎俊夫ユニットリーダー、ジャパンスーパーコンダクタテクノロジーの斉藤一功取締役/CTO、JEOL RESONANCEの蜂谷健一リーダー、JSTの前田秀明プログラムマネージャーのほか、住友電気工業、物質・材料研究機構、東京工業大学、上智大学の研究者らも加えた総勢18人による産学共同研究チームによるもの。詳細は、学術誌「Superconductor Science andTechnology」に掲載された。
すべてが超電導体でできているコイルに電流を流すと、抵抗がないため、半永久的に電流が流れ続ける「永久電流」と呼ばれる現象が生じる。これにより発生する強力な磁場を利用したのが、NMR装置で、外部電源から超電導コイルに一度だけ電流を供給したあと、コイルを電源から切り離して回路を閉じることで、永久電流運転に移行する仕組みとなっている。この際、コイル部分の超電導線材だけではなく、スイッチなどの接合部分も超電導状態でなければならないため、「超電導接合」技術が不可欠とされている。
また、近年の超電導研究としては、液体窒素温度(-196℃)でも超電導状態になる「高温超電導」の探索が進められ、実用化の模索が続いている。中でも高温超電導線材は、液体ヘリウム温度にまで冷やせば、低温超電導線材よりはるかに高い磁場を発生させることができるため、高温超電導線材の超電導接合(高温超電導接合)を使った次世代超高磁場NMR装置の実現が期待されているという。しかし、高温超電導線材はもろく取り扱いが難しいため、高温超電導接合には技術的困難が多いことが課題とされていた。
そうした中、研究チームが2018年に開発したのが、高温超電導接合を実装したNMR装置で、このときは2日間の磁場変化の観測により、理論上はコイルを冷やし続ければ外部電源なしで10万年間も磁場が発生し続ける性能が示され、通常NMR装置に求められる基準をクリアしていた。しかし、高温超電導線材を構成する脆い銅酸化物が原子レベルでつながる接合部が、長期間にわたり永久電流を保持できるかが明らかではなかったという。そこで、400MHzの磁場での長時間にわたって永久電流運転を実施することが決まり、絶え間なく約2年間にわたって連続した永久電流運転が実施され、磁場の精密測定が続けられた結果、今回、開発された高温超電導接合が約2年という長期間にわたって絶え間なく安定的な永久電流を維持できることが示されることとなったという。
また、1時間当たりの磁場変化率は、2018年当時の1時間当たり10億分の1レベルから、時間と共にさらに小さくなり続け、2年目には1時間当たりわずか300億分の1となったことも確認されたとしており、これは、電流を供給しなくても300万年ほど磁場が発生し続けることを示す結果だという。
NMR装置は10年以上にわたって永久電流を安定に維持する必要があるが、これまで高温超電導接合を実装したNMR装置による永久電流運転は数日間程度のものしか報告されていなかったという。そのため、今回の成果は、高温超電導接合を実装したNMR装置の実用化に向けて重要な成果だと研究チームでは説明している。
また、高温超電導接合を実装した液体ヘリウムで冷却する超高磁場のNMR装置においては、直流電源から電流を供給し続ける従来方式に比べ、液体ヘリウムの蒸発が1桁以上小さくなることもわかっていることから、研究チームでは、さらに技術を発展させることで、将来的には、希少で高価な液体ヘリウムを使用しない小型で汎用性の高いNMR装置の開発も可能になるとしており、その先には、医薬品検査用の定量NMRや、アルツハイマー病発症に関わるアミロイドβペプチドの構造を超微量試料で得られる次世代超高磁場NMRの実現など、汎用化・高性能化による普及拡大が期待できるとしている。そのため、研究チームでも今後、今回の成果を活かし、現在の世界最高磁場である1.2GHz(28.2T)を超える1.3GHz(30.5T)の超高磁場NMR装置の開発を目指すとしている。