科学技術振興機構(JST)はJST理事長記者説明会を9月17日に開催し、6月に発表した令和3年度(2021年度)の第46回井上春成賞受賞の受賞技術である、歯科領域で使用可能な人工骨の研究「骨組成(炭酸アパタイト)人工骨」とヒトの温冷感を推定する技術の研究「温熱生理学に基づく温冷感推定技術の開発」の受賞対象者・社に賞状などを授与して、その功績を称えた。
井上春成賞は、JSTの前身の1つである新技術開発事業団(JRDC)の初代理事長であり、工業技術庁初代長官でもあった井上春成氏の功績を基に、JRDCの創立15周年を記念して創設された賞で、日本の科学技術の進展や経済の発展、福祉の向上に貢献したとされる研究者や企業を表彰するもの。
「骨組成(炭酸アパタイト)人工骨」の研究は、九州大学大学院 歯学研究院の石川邦夫 教授と、その商品化を担当したジーシー(本社東京都文京区)の中尾潔貴 代表取締役社長が表彰を受けた。ジーシーは歯科材料や歯科機械・器具の製造・販売メーカー大手。
石川教授が長年研究開発した人工骨研究開発成果を基に、ジーシーは商品名「ジーシー サイトランス グラニュール」という炭酸アパタイト組成の歯科領域向け骨補填材料を開発し、2017年12月14日から販売。人工骨材料を事業化している。
この骨補填材料は「歯科領域で使用可能な人工骨(歯)を世界で初めて実用化した商品である」という。
人間の歯を含む骨は、炭酸アパタイトが約70%、コラーゲンなどの有機成分が20%。水分が10%という構成になっている。人間などの脊椎動物の骨格の化学組成は、Ca(カルシウム)や炭酸アパタイト(CO3AP:Ca10-a(PO4)6-b(CO3)c)が主成分になっている。
石川教授は、このCa10-a(PO4)6-b(CO3)cが、破骨細胞に吸収され、骨芽細胞によって骨に置換していく反応を持ち、インプラント体と骨が次第に一体化することをビークル犬の顎骨の研究などから明らかにした。
この研究開発成果を基に、九州大学病院、徳島大学病院、東京医科歯科大学病院の3者で、医療機器の承認・治験を行う多施設治験を実施し、医薬品医療機器総合機構(PMDA)から“高度管理医療機器”として大臣承認を得た。
この結果、すべての歯科領域で使用可能な人工骨として炭酸アパタイト組成の歯科領域向け骨補填材料の販売などが認められた。
一方の「温熱生理学に基づく温冷感推定技術の開発」の研究は、奈良女子大学研究院工学系工学領域の久保博子教授のヒトの体温調節反応に着目し、放熱量を計測することで個人の温冷感を推定するという研究を基にパナソニックが画素数の少ないサーモカメラであってもヒトの放熱量を計測可能な画像処理技術を開発。2015年に温冷感センサー搭載のエアコンディショナーを製品化した。
久保教授は、「冷房時の冷やしすぎなどを自動的に防ぎ、過暖房・過冷却をしない仕組みを実現できた」と自身の研究成果を振り返った。