2020年以前、世界的なパンデミックへの対応を、BCP(事業継続計画)最優先事項としていた企業はあったでしょうか?私たちはコロナと生きることに慣れつつあります。マスクは生活必需品となり、テレワークを活用しながら出勤を最小限に抑え、常に感染対策をしながら暮らすことが当たり前になっています。
しかし、このパンデミックが経済に及ぼす影響は多大です。現在も、人的・経済的影響は拡大しており、企業は事業の継続と存続を確実にするために、迅速な対応が求められ続けています。
驚くことに、8×8社の調査によると、英国企業の25%は危機管理プランを持っておらず、41%の企業が公式なテレワークポリシーを導入していないことが明らかになりました。そして、災害大国とされている日本でも、パンデミック以前は台風や大雨で交通機関が麻痺しているような状態でも、出社しようとする人達が駅で長蛇の列を作っている姿が度々報道されてきました。
今回のパンデミックは、働き方の未来のために、「働く」の意味を再考し、「働くこと」に対する考え方を再度考えるチャンスになったとも言えます。
企業は、コロナ禍を生き残り、コロナ後も成長し発展するため、新しいアイデアを模索することを余儀なくされています。結果的に働き方はより柔軟になり、そのためのIT設備の導入は加速しました。だからこそ、IT部門と人事部門がより緊密に連携し、従来のパターンを打破して、新しい有益なプロセスを導入し、業務効率の向上、ビジネスの敏捷性、従業員の福利厚生のバランスをより重視する必要があります。
事業継続のためにITとHRの連携が重要な理由
パンデミックにより広がったテレワークと柔軟な働き方は、従業員にとっても企業にとってもさまざまな課題が浮き彫りになりました。テレワーク下での働きすぎもその一つです。オフィスとは違い、部下の働きすぎが見えにくいテレワーク下では、従業員の燃え尽き症候群に気をつけなければなりません。日本生産性本部が2021年7月に発表した調査によると、「テレワークをスムーズに行うためにはどのような課題があるか」という問いに対し、14.7%が「働きすぎを回避する制度や仕組み」と回答しています。
このような状態から従業員を守るためには、従業員のウェルビーイングを管理が必要です。だからこそ、ITと人事の側面で協力と戦略的計画が必要となってくるのです。
ITの観点では、従業員が自分の能力を最大限に発揮して効率的に仕事ができるようにするとともに、チーム、部門、顧客の間でオープンなコミュニケーションラインを確立するための適切なデジタルツールが必要です。これにより、多くの従業員はオフィスに行かないと仕事ができないという状況から解放され、テレワークを活用し、自律性と責任感を得ることができます。多くの人は、時間を有効に使うことが可能になり、仕事以外の時間を確保できるようになります。しかし、その働きやすさのため、オーバーワークする人が増えているのです。
健全なワークライフバランスを保ち、パフォーマンス、生産性、エンゲージメントが高く保たれるようにするには、人事が重要な役割を果たすことになります。また、従業員のニーズや要求に確実に対応するために、人事部の力が必要になります。従業員は、何を必要としているのかをより明確に理解し、ニーズに応えられるような対応が必要です。
オフィスなら自然に起きていた雑談やショートブレイクなどの機会を、分散して働く人たちにどのように提供するのか?常にテレワークで働く社員と、頻繁に出社する社員で不平等な扱いが起きていないか?など、人事部は戦略的なレベルでより大きな役割を担うことになります。
従業員エクスペリエンス(EX)の再構築に向けて
新しい仕事の世界に移行するには、企業、従業員、人事部門は、今後の課題を再考し、人々がどこでどのように働くかというプロセスを見直さなければなりません。
コロナ前のテレワークに対する考え方は、曖昧なものであり、大規模な導入に反対する論拠は、主に可視性、生産性、セキュリティに関する懸念でした。今回のテレワークへの移行を通して、見えてきたのは別の課題です。
優れたテクノロジーの導入により、企業はいつでもどこからでも従業員とつながっていることが可能な状態になりました。その上、テレワーク中は、仕事とそうでない時間の境界線が曖昧になりがちです。しかし、日本生産性本部の調査では20.5%が孤独や疎外感を感じており、31.3%が仕事の成果が評価されるか不安を感じていると報告しています。常につながっているはずなのに、孤独感と不安を感じているのです。
常につながっていられるからこそ、仕事とそうでない時間の境界線を明確し、バランスをとることは、高い生産性と従業員の幸福感の向上を両立させる上で非常に重要です。
そこで人事部ができることは、非公式な交流のための専用の時間づくりや、トレーニングの機会、定期的なパフォーマンスとフィードバックのレビューに関する明確な構造作りなどです。
また、マネージャーやリーダーは、従業員と意識的に直接関わることで、チームをまとめ、生産性を向上させ、目的意識や構造を生み出すという重要な役割を果たすことができます。
テクノロジーや新しいデジタルツールの使用や普及が、従業員にどのような影響を与えるかを理解する上で、人事部には新しい役割がでてくると思います。HRリーダーが、従業員が企業に期待していることを把握し、責任を理解することが、デジタルで常時接続された新しい職場環境で成功する上で不可欠です。
デジタルトランスフォーメーションとオペレーションの将来性
コロナが収束した後、どのようにオフィスを活用するべきか、企業は問われています。ミーティングやコラボレーションの場としての活用、顧客を招き企業文化に触れてもらう場所、フリーアドレスの導入、個人用のフォーカスエリアの準備、さまざまな案があると思います。いずれにしろ、これらを決めていく上で必要なことは、IT部門、人事部門、従業員の間で協力体制です。
基本的なビジネスニーズと、従業員エクスペリエンス(EX)の両方にメリットをもたらす明確なビジョンを実現する戦略的アプローチを促進するために、人事とITの両方が大きな役割を果たすことになります。より多くの共感が得られれば、新しい技術や業務プロセスの導入をより効果的にサポートすることができます。
そして、人事部とITの両方がデジタルワークスペースの実現を支援することで、従業員は健康的なワークライフバランスを実現する機会を得ることができるのです。
「VUCA時代」という言葉をよく聞くようになりました。これは不確かな未来に対し企業がビジネスの成果と従業員の体験の両方をより良くするために、事業運営方法を再定義することで、結果的にあらゆる事態にも対応できるBCP(事業継続)計画作りにつながるのです。