Analog Devices(ADI。旧Maxim)は米国時間の9月21日、ウェアラブルデバイスやワイヤレスヘッドホン/補聴器などのヒアラブルデバイスに向けたパワーマネジメントIC(PMIC)「MAX77659」を発表した。

先ごろ発表された「MAX86178」の様に、ますますウェアラブルデバイスは広範に利用されるようになっている。加えれば超小型のワイヤレスヘッドホンも益々増えているのはご存じの通り(Photo01)。

  • MAX77659

    Photo01:最近はConsumer WearableとMedical Wearableの境目が次第に曖昧になってきた感は強い

この結果として、電源に対する要求はさらに厳しくなっている。なにしろ小型軽量化とバッテリー長寿命という2つの要求は本来両立しない訳で、どこかで妥協するしかないのだが、その妥協のポイントのレベルがどんどん上がっている(Photo02)。

  • MAX77659

    Photo02:しかも機器への要求が増えている結果として、消費電力そのものは増えかねない状況だから、さらにPMICに求められる要求は厳しくなる

特に最近では機器内のチップそのものが次第に増え始めているから、より多くのチップへの電源供給管理もPMICには求められるようになってきた。

  • MAX77659

    Photo03:ウェアラブルだから、複数のPMICを実装するのは面積とコストの両方から厳しいため、できれば1つのPMICで済ませたい

こうしたニーズに向けて同社が発表したのがMAX77659(Photo04)である。

  • MAX77659

    Photo04:電圧一定の機器はスイッチングレギュレータの出力を、動作条件が電圧に依存するアナログ回路とか一部のデジタル回路向けには電圧を変えられるLDOの出力を、それぞれ利用する形

従来製品と大きく変わらないパッケージサイズながら、3つのスイッチング出力と1つのLDO出力を提供しつつ、さらに変換効率を高め、加えてバッテリー給電時の給電速度を4倍に高速化した、とする(Photo04)。ここで同社のSIMO(Single Inductor Multiple Output)は、スイッチングレギュレータに利用するインダクタンスを複数の出力で共有できるため、小型機器ではサイズ的に問題になりやすいインダクタの数を1つに減らせるというものだ(Photo05)。

  • MAX77659

    Photo05:ちなみに実際にはインダクタを時分割の形で複数のDC/DCレギュレータで共有する形になる

MAX77659の特徴は、充電時の効率が高い事だ。従来のソリューションと比較して、はるかに高速(最大4倍)に充電が可能で、しかも充電時の発熱を非常に低く抑えられるとしている。

  • MAX77659

    Photo06:一例を挙げると、補聴器向けであれば、10分の充電で4時間の利用が可能とされた。これが従来のLinear Chargeの方式だと1.5時間しか使えないとの事

ちなみにSIMOは今回登場した技術ではなく、2018年にMAX77650として投入されている技術である。Photo04に示した諸々の数字(例えば充電が4倍高速でパッケージサイズ半減)はこのMAX77650との比較ではなく、競合製品との比較との事。

ただMAX77650と比較しても今回のMAX77659は、

  • DC/DCコンバータの効率が84%→90%に向上
  • バッテリー充電のアルゴリズムを強化して、より充電時間を短縮

といった改良がおこなわれているとの話であった。

気になるのは、型番から判るようにこの製品は旧Maximの流れを汲むものであり、これとは別にADIはADI自身のPMICに加えて旧Linear Technologyの流れを汲むPMIC製品が大量にある訳で、今後製品ラインナップの融合の中で旧MaximのPMICがどうなってゆくか、というあたりだろうか。ただ現状ADIのPMICや、Linear Technology系の製品(ADI Power by Linear)は、ウェアラブル/ヒアラブル機器にはちょっと大きすぎるというか、もっと消費電力の大きな用途向けという感じなので、SIMO PMICのラインはこれからも残ってゆきそうな気もする。