沖縄科学技術大学院大学(OIST)は9月17日、27~33歳と72~80歳の2つの年齢層の実験参加者から任意で採取した唾液を用いて、ヒトの唾液に含まれる代謝物を包括的に解析した結果、21種類の量が2つの年齢層間で異なっていたことを確認したと発表した。
同成果は、OIST G0細胞ユニットの照屋貴之博士、同・呉我春学研修生(沖縄県警察本部科学捜査研究所所属)、同・柳田充弘教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
代謝物とは、我々の体内で起こる化学反応の中間生成物や最終生成物のことで、エネルギー産生、消化、成長、細胞の健康などに関係しているといわれている。柳田教授らはこれまで、血液や尿を調査し、いくつかの代謝物の量がフレイル(虚弱)や認知症と関連していることを報告してきたが、加齢に伴う唾液の変化については、これまで包括的に研究されたことはなかったという。
そこで今回は、27~33歳と72~80歳の2つの年齢層の合計27人(沖縄県内在住)の唾液を検体として解析を実施。その結果、包括的な方法を用いることで99種類の代謝物を同定することに成功したほか、その中には、これまで唾液中に確認されたことがなかったものが含まれていることも確認したという。
具体的には、高齢者では、抗酸化作用、エネルギー産生、筋肉の維持などに関連する20種類の代謝物の量が若年者よりも減少していたのに対し、1種類の代謝物「アデノシン三リン酸」(ATP)が、2倍弱にまで増加していることが判明。唾液には生物学的老化を反映する情報が含まれているということが示されたという。
研究チームでは、ATPの量が増加していたという点については、エネルギーの消費が減り、ATP消費量が減少しているためと考えられるとしている。また、減少した代謝物の中には味覚に関連する2つの代謝物が含まれており、高齢者では味覚が低下していることが示唆されることが示されたとしたほか、嚥下などの筋肉の活動に関連する代謝物も含まれていたとのことで、これらのの加齢に関連する代謝物は、ヒトの加齢に伴う口腔機能の低下を反映した代謝ネットワークを明らかにしたものであるとしている。
また、筋肉の活動に関係する代謝物であるクレアチニンとアセチルカルノシンの2つの代謝物の量に男女間で有意な差が見られ、女性の方が男性よりも量が少ないことが明らかになったともしており、日本では、90歳以上の高齢者の9割が女性で、その多くが筋肉や認知機能に支障を来していることにも関連する結果だとする。
なお、研究チームでは、唾液中の代謝物を包括的に解析する研究を今後も進めていくことで、将来的には、唾液検体から個人の健康に関する膨大な情報が得られるようになることが期待されるとしており、将来、ヒトの代謝老化の程度を簡便に評価したり、老化関連疾患の早期兆候を見つけたりするのに役立つ可能性があるとしている。