Analog Devices(ADI。旧Maxim)は米国時間の9月20日、RPM(Remote Patient Monitoring)に対応した医療機器グレードのAFEとして「MAX86178」を発表した。これについて事前説明会が開催されたので、それをベースに説明したい。

全世界的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、ますます医療モニタリングの重要度が増しているというのは日々実感する通り。実際ウェアラブルタイプの医療モニタリング機器は急速にマーケットを広げているという。COPD(実際慢性閉塞性肺疾患)や睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)、AFib(心房細動)などを患っている患者には常にモニタリングされることが望ましいし、こうしたニーズが急増している結果として単に医療機器のみならずスマートウォッチの類に様々なモニタリング機器が搭載されるようになり、しかもその種類が増えつつある。

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    Photo01:2020年末で約3.5億台が出荷されていたが、これが2025年末には7.5億台と倍以上に増えると見られており、2019年からで言えば平均14%と高い伸びになると見られている

こうした話は別に昨日今日に始まった話ではなく、数年前から兆候が見られていた。それもあってADI(旧Maxim)ではHSP(Health Sensor Platform)を2016年から提供しており、2020年にはHSP 3.0を発表している。このHSP 3.0ではAFEとしてMAX86176を搭載しており、このMAX86176でPPG(パルスオキシメータ)とECG(心電図)の測定が可能となっていた(HSP 3.0ではほかに温度センサーとして精度±0.1℃のMAX30208を搭載、これで正確な体温測定も行っていた)。

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    Photo02:新型コロナ絡みで言えば、これまで必要とされてこなかった若年層向けのモニタリング需要が急増しているという話であった

今回発表されたMAX86178は、MAX86176の後継にあたる(Photo03)。

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    Photo03:生体インピーダンスの場合、「どこで」測定するかとか、どんな信号を与えて測定するかなどで、様々な指標の測定が可能とされる

最大の特徴は、PPGとEGCに加え、生体インピーダンスの測定が可能になったことだ。生体インピーダンスと言えば日本では体脂肪率の測定に使われることが多いが、他にも呼吸数の測定などにも活用できる(Photo04)。

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    Photo04:MAX86178を利用する事で、4種類のバイタルサイン測定が可能になった

特に新型コロナでは呼吸器系にダメージが出る場合も少なくないため、呼吸数の確認もまた重要なファクターとなり、これに対応した形だ。MAX86178に加え、HSP 3.0でも利用されていたMCUや温度センサー、PMICを組み合わせる事でより便利なソリューションを提供できる、というのが今回の説明である。

ちなみにこの説明はADIにてWearable Healthcare BusinessのManaging Directorを務めるAndrew Baker氏が行ったが、氏の前職はMaximで同じくWearable Healthcare BusinessのManaging Directorであり、HSP 3.0の説明もBaker氏が行っている。どうもBaker氏が所属するIndustrial & Healthcare Business Unit(インダストリアル&ヘルスケア製品事業部)そのものがMaximからADIに横滑りする形でそのまま継続されているようだ。

疑問はなぜこれをHSP 4.0にしなかったのか? だが、氏によれば「別にHSPそのものが無くなったわけではなく、引き続きHSP 3.0は提供しているし、次のHSPも現在検討中」という話であった。おそらくはADIによる買収の結果として、HSPにもADIの製品をもう少し入れてゆく方向性が検討されているようで、ただ現時点ではまだそれを世の中に出せる状況にまで煮詰まっていない、ということだろう。

プラットフォームを名乗る以上、単にチップだけ用意してもダメで、それを利用するためのソフトウェアとかソリューション、PCBのデザインあたりまで提供しなければ意味が無いし、新しいチップを入れるとその動作検証にも時間が掛かる。そのあたりを勘案して、今回はAFEチップ単体での提供、という事になったようだ。おそらくHSP 4.0が登場するのは、ADIとMaximの製品ラインナップの統合がもう少し進んでから、というあたりではないかと予想される。

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    Photo05:これだけ見てると現状は旧Maximの製品ラインで完結している(まぁ、これは当然そうだろう)訳で、今後ADIの製品がどの程度HSPに入ってくるのかが見どころとなりそうだ