沖縄科学技術大学院大学(OIST)は9月15日、認知症に関連する血液中の代謝化合物(代謝物)を特定し、認知症患者と健康な高齢者とでは、33種類の代謝物の濃度に違いがあることが明らかになったことを発表した。

同成果は、OIST G0細胞ユニットの照屋貴之博士、同・柳田充弘教授、国立病院機構琉球病院の福治康秀院長、京都大学 医学部附属病院 地域ネットワーク医療部の近藤祥司准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

認知症は、単一の疾患ではなく、記憶力、思考力、判断力、日常生活の遂行能力などがゆっくりと、通常は不可逆的に低下していく一連の症状に対する総称であり、世界で約5500万人の患者がいると推定され、世界的な問題と考えられている。

認知症などの疾患を発症すると、体内において、さまざまな代謝物の濃度が変化することが知られている(年齢を重ねることでも変化は生じる)。また、認知症が神経障害によって起こることは分かっているものの、なぜそれが起こるのかについての正確な原因はまだ完全には解明されておらず、神経障害を検出し、治療する方法も完全には見つかっていない。

そこで研究チームは今回、認知症患者と健康な高齢者各8人から血液検体を採取し、解析を実施(参照として健康な若者8人からも検体を採取)。血中の代謝物を解析する一般的な研究とは異なり、今回は赤血球中に含まれる代謝物も解析対象とされた。しかし赤血球は、放っておくと短時間でも代謝変動を起こすため、扱いが難しいことから、今回の研究では、赤血球内の代謝物を安定化させる方法を開発することで調査を実現したという。

全血中に含まれる124種類の代謝物の濃度を測定した結果、その中で5つのサブグループに分類される33種類の代謝化合物の値が認知症に関連していることが確認されたという。このうちの7種類は認知症患者において高い値を示し、26種類は低い値を示していた。また、これらの代謝物うちの20種類は、これまでに認知症との関連性が指摘されておらず、その20種類うちの9種類は赤血球中に多く含まれるものであることも判明したという。

また高い値を示した代謝物の中には中枢神経系に対して毒性を持つと考えられるものが含まれていることを確認。今回の研究では結論が出るまでは至っていないというが、これらの代謝物は、脳の障害を引き起こす可能性があるため、認知症の原因となるメカニズムを示唆している可能性があるとする。

今後研究チームは、マウスなどの動物モデルを用いて、これらの代謝物が増加すると認知症が誘発されるかどうかを調査して、この問題を検証する予定としている。

このほか、低い値を示した代謝物26種類の中には抗酸化物質が含まれていることも確認。特に健康な高齢者の赤血球中には、食品由来のこれらの抗酸化物質が多く含まれていることも判明したことから、赤血球は、酸素だけでなく、神経系を損傷から守る重要な代謝物も運んでいる可能性も考えられるとしている。

なお、今回の研究の責任著者で、OISTのG0細胞ユニットを率いる柳田教授は、「これらの代謝物を特定したことは、認知症の分子診断に向けて一歩前進したといえます。将来的には、認知症患者に低い値を示した代謝物を補給したり、高い値を示した代謝物の神経毒を阻害したりすることで、認知症の進行を遅らせたり、症状を予防したり回復させたりすることができるかどうかを調査する介入研究を始めたいと考えています」とコメントしている。

  • 認知症

    ヒートマップ(代謝物の高値が赤色、低値が青色で示されたもの)より、特定の代謝物と認知症との関連性が明らかとなった。概して、サブグループAの代謝物は認知症患者で高値であることを示し、健康な高齢者で低値であることが示された。サブグループB~Eの代謝物は、その逆の傾向が確認されたとする (出所:OIST Webサイト)