人々を笑わせ、考えさせるユニークな研究に贈られる「イグ・ノーベル賞」が発表され、歩きスマホなどで「歩行者同士がぶつかることがある原因を検証する実験を行った」として、京都工芸繊維大学の村上久助教(認知科学)ら、日本の研究グループが「動力学賞」を受賞した。日本人のイグ・ノーベル賞受賞は15年連続となった。

受賞者は村上助教のほか、東京大学のクラウディオ・フェリシャーニ特任准教授、西成活裕教授、長岡技術科学大学の西山雄大講師。9日の受賞を受け、村上助教は取材に「驚いたがうれしい。生活にも関わる身近な題材から科学的発見が得られたことを、うれしく思う」とコメントした。

  • alt

    実験の様子(京都工芸繊維大学提供)

実験では2つの人の集団を向かい合わせで歩かせた。一部がスマートフォンで計算問題を解きながら歩くと周囲への注意が低下し、当人や周りの歩行が遅くなり、すれ違う列の形成が遅れた。スマホの人は向かい合う人の方へ突っ込んでいったり、衝突直前に方向転換したりし、それが他人の動きにも影響を与えた。

こうした結果から、集団全体の秩序のため、人が互いに予期し合うことが重要であることを確認した。成果は秩序だった構造が集団で自律して生じる「自己組織化現象」の理解を深め、混雑や群衆の事故の防止、さらにロボットやドローンの衝突回避などに役立つ可能性もあるという。

研究は日本学術振興会科学研究費助成事業、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業、文部科学省卓越研究員事業の支援を受けた。成果は米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に3月18日に掲載。サイエンスポータルが同26日に報じていた。

  • alt

    表彰盾と「賞金」を手にする村上助教(本人提供)

受賞者には表彰盾と模造品で無効の「賞金10兆ジンバブエドル」が電子メールで贈られ、受賞者自ら紙に印刷し完成させた。村上助教の研究室のツイッター投稿によると「盾はエアコンの風で飛ばされそうなほど頼りない」という。

イグ・ノーベル賞は1991年にノーベル賞のパロディーとして米科学誌が創設。授賞式は例年、米ハーバード大学で行われるが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で昨年に続きオンラインで行われた。

関連記事

横断歩道を行き交う人々「予期しあって秩序形成」、実験で解明

雌雄逆の昆虫発見の日本人研究者ら4人にイグ・ノーベル賞