理化学研究所(理研)と名古屋大学(名大)は9月14日、日々得られる最新のデータを生かした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予測を開始し、Webページ上で公開したことを発表した。
同成果は、理研 計算科学研究センターデータ同化研究チームの三好建正チームリーダー、キウェン・ソン大学院生リサーチ・アソシエイト、坂本英之 テクニカルスタッフI、名古屋大学大学院 多元数理科学研究科のセルジュ・リシャール特任教授、津々直大氏(修士2年生)、同大 理学部 物理学科のチャン・スン氏(4年生)、リョクヨウ・チョウ氏(4年生)らの共同研究グループによるもの。
これは、コンピュータを使った天気予報の要となるデータ同化の方法を新型コロナの感染予測に応用したもの。感染拡大には、1人の感染者が何人に感染させたかを示す「実効再生産数」が良い指標となるが、直接それを知ることはできないため、これまで感染予測では、主に実測データを使って推定し、この推定値に基づいてSIRモデルによる予測が行われてきたが、実測データに含まれるノイズの影響を受けやすいなどの問題があったという。
データ同化は、実測データとシミュレーションの数理モデルを結び付けるもので、主に天気予報を中心に予測精度の向上が図られてきており、数理モデルと実測データを使った感染症予測にも有効であると期待されているものの、その感染症予測での応用例は限られていたという。
そこで研究グループは今回、データ同化の方法を新型コロナの感染予測に応用し、数理モデルと実測データを最適に結び付けた予測を実現することにしたという。
実測データとして採用したのは、毎日発表されている「入院治療などを要する人の数」、「退院または療養解除となった人の数」、「死亡者数」の3種類で、数理モデルにはSIRモデルを新型コロナの特徴に合わせて独自に拡張した「拡張SIRモデル」を新たに構築。これらに、天気予報で使われるデータ同化手法であるアンサンブルカルマンフィルタ適用し、融合させたものが予測手法となるという。
実際に実効再生産数(信頼区間68%)を推定したところ、全国のデータを使った結果では、過去3回東京都に出された緊急事態宣言の期間(1回目:2020/4/7~ 5/25、2回目:2021/1/8~3/21、3回目:2021/4/25~6/20)に対応して、実効再生産数が減少し、感染抑制効果が確認されたとするほか、緊急事態宣言の回数を重ねるにつれ、その効果が小さくなっていくことも分かったとする。また、2021年7月12日から発表段階(2021年9月14日)まで続く東京都での緊急事態宣言期間においては、8月8日をピークに実効再生産数が減少し始め、感染抑制効果を確認したとする。
この結果を受けて研究グループでは、過去3回の東京都における緊急事態宣言期間での実効再生産数の減少率に対応した将来予測シナリオ(1回目:A1、2回目:A2、3回目:A3)と感染抑制効果がない場合として、実効再生産数が最新の推定値のまま変化せずに推移する予測シナリオの4つの予測シナリオを計算。
さらに、この4つの予測シナリオに基づき、拡張SIRモデルにより入院治療などを要する者の数の将来の推移も予測。研究グループでは、過去の緊急事態宣言期間の感染抑制効果に対応した予測データを相互比較することで、感染抑制効果が今後の推移に与える影響をイメージしやすくなるとしている。
なお、研究グループでは、データ同化の応用により、新型コロナウイルス感染の高精度予測を行うことができるようになったとしており、今後、現在の拡張SIRモデルでは考慮されていないワクチン接種の効果や、複数の地域間の人の往来の効果、人流・気温といった感染のしやすさに影響を与える要因などを取り入れたより精緻な数理モデルを考慮し、これと実測データを最適に結び付けるデータ同化によって、感染抑制効果の原因解明や、状況に応じた効果的な感染抑制策の提案など、実際の新型コロナウイルスの感染対策に役立てられることが期待されるとコメントしている。