「ジョブ型雇用」という言葉をご存じだろうか。
現在の日本では、新卒を一括で採用し、職種や仕事内容をローテーションさせて適正を見極めながら長期的に人材を育てていく「メンバーシップ型雇用」が主流と言われている。
それに対し、欧米など諸外国ではあらかじめ規定された「職種や仕事内容に必要なスキル」に沿った人のみを雇用する「ジョブ型」が主流だという。メンバーシップ型雇用が人に仕事を割り当てる制度ならば、ジョブ型雇用は、仕事に人を割り当てていく制度とも言われる。
日本経済団体連合会(経団連)が日本企業にジョブ型雇用制度の採用を呼びかけたことに端を発し、大企業を中心に導入に向けた動きが広がっている。
日立製作所(日立)は、2011年からジョブ型雇用を意識した人事制度「ジョブ型人財マネジメント」を進めており、2021年には初めて入社前の大学生・大学院生を対象にした「ジョブ型インターンシップ」を実施することも決定した。
2021年に開催されるジョブ型インターンは主に研究開発部門が対象で、採用には直結せず、年間を通じ300名程度を受け入れる想定だという。
ジョブ型インターンを通じて学生に伝えたいこと
では、同社が今回進めているジョブ型のインターンとはどのようなものだろうか。
それは、インターンの時点から「入社後にはどのような業務を行うのか」を学生に具体的に提示するために、研究テーマを選択し、その研究を社員とともに3週間にわたって行うというものだ。
提示される研究テーマは、例えば「自動運転を実現するための安全分析・評価技術の研究」や「Fusionセンシングによる空間活性度の研究」といったもので、学生は自分が大学で行ってきた研究や、培った技術を基に選択を行うこととなる。
これらのテーマは、もともと社内の研究員が研究している内容でもあるため、インターンでの研究成果が社内で活用される場合も考えられるという。
実際にインターン生を受け入れる部署の担当者が、その部署のジョブ・ディスクリプション(職務記述書)に沿ったスキルを持っているかどうかを書類・面談を通じ確認してインターンの合否を決定する。
ジョブ・ディスクリプションとは、同社で職種ごとに作成している職務内容や必要なスキルなどをまとめたもの。その内容に沿ったスキルを持った社員を年齢や所属にかかわらず登用するというジョブ型人財マネジメントの根幹を担うものだ。
今回は取材のタイミングで、8月23日から9月10日にかけて「フェイクニュースをはじめとする情報信憑性問題を解決する言語処理技術の研究開発」というテーマでインターンが実施されており、その様子を見学させていただいた。
今回取材したインターンでは、合格した学生3名でチームを構成し、そこに日立の社員が入り、1つの研究テーマを進めていく形を取る。
3週間の間、朝9時からの朝会と夕方の進捗報告の際に社員を交えたオンラインミーティングを行う。学生は、研究に必要な調査や論文を読んだり、プログラミングを行っていく形で進めていきながら、研究のアプローチ方法や研究内容について都度社員と議論する機会を設けるなど、社員とのコミュニケーションをとりながら、インターンに取り組む。インターンの最後には、研究成果を発表する流れとなっている。
職種によっては、クライアント先に同行するカリキュラムがある場合もあるようだ。
学生に他社のインターンとの違いを感じるか? という質問を投げかけさせてもらったところ「自分の専門性を活かせるテーマを選んでインターンに参加できる」ことや「大学で勉強している技術を用いて、より実践的なことができる」ことが、違いであったり、魅力として感じられる点としてあげられた。
同社の人財統括本部 部長代理の大河原久治氏は「このインターンを通じ、どんなスキルが必要で、どんな責任が伴うのかなどの仕事の中身を学生の方に理解いただき、その上で自分の希望キャリアが日立のジョブに合致するのかを考えることが重要」と、仕事内容の本質的な理解と、その上で自分のキャリアを自律的に考えて選択してもらうことがこの取り組みの目的だと説明する。