急成長する車載用IC市場で競争する半導体メーカーは、設計フロー全体で新たな課題に対応する必要があります。100万個あたりの不良パーツ(DPPM)ゼロというISO 26262の目標を達成するために、DFT(design for testability)エンジニアは、セル内、配線間、セル間(セル近傍)ブリッジなどの新しいテストパターンを取り入れました。しかし、適用するパターンの種類を選択したり、目標カバレッジを設定したりする従来の方法では、品質、テスト時間、テストコストの改善がおざなりになってしまいます。

目標とするテストカバレッジは、それぞれ静的パターンでは縮退故障モデル、動的パターンでは遷移故障モデルとなりますが、通常は検出される故障の割合に基づきます。これらのターゲットは企業ごと異なり、適切な目標を決定するには、多くの場合は何年もの製造不良データが必要です。

企業が新しい故障モデルを追加する必要がある場合、そのターゲットは、既存の故障リストに基づくテストカバレッジとは全く異なるものになるかもしれません。たとえば、潜在的ブリッジ故障のテストカバレッジをターゲットにすると考えた場合、これは膨大なリストになる可能性があります。ブリッジ故障の99%を検出できるかもしれませんが、最も発生する可能性の高い数百のブリッジを見逃してしまうことも考えられます。DPPMを削減するには、発生する可能性が高いブリッジのサブセットを選択する方が効果的です。

ただし、最先端の方法では、検出された故障や不良の数をトータルの故障または不良で割り、テストカバレッジによってパターンを選択します。このように算出されたテストカバレッジは、個々の故障に関する製造不良の発生率とは無関係であり、最適なパターンセットの作成という観点で現実的ではありません。これにより、テストパターンセットは過度に長大になり、テスト時間は必要以上に長くなり、推定されるIC品質の信頼性は低下します。これらは、現在直面している現実的かつ一般的な問題であり、特に車載用ICのDPPM要件を満たす上での懸念です。

テストの為の指標としてのクリティカルエリア

この課題に対して、業界をリードする半導体企業との緊密なパートナーシップによって開発した新しいアプローチでは、物理的故障が発生する可能性に基づいてパターンの価値評価を測定します。

この方法では、パターンによって検出された故障に関連する総クリティカルエリア(TCA)を計算します。言い換えれば、故障が発生する可能性をクリティカルエリアに基づいて最初に決定すれば、検出された故障を考慮して各種パターンセットを並べ替え、適用する最も効果的なパターンを選択できます。

TCAは、DPMに対するパターンの影響を評価するための共通の指標を提供します。これを使うことで、DPPMが最も低くなるようにパターンを並べ替えたり、順序付けたりすることができます。TCAを使えば、元のパターンセットと同数のパターンであっても、新しい故障モデルをターゲットとするパターンを組み合わせることで、より効果的なパターンセットにすることができます。物理的故障を検出する能力に基づいて、最も効果的なパターンをパターンセット全体から選択する、または並べ替えることができます。

クリティカルエリアとは、設計レイアウト上で、特定の物理的故障がデザインの不良を生じる可能性を決定するエリアを意味します(図1)。

TCAは、個々のクリティカルエリア(2つの配線間ショートや配線のオープン)の合計を、そのスポットサイズの発生率で加重したものです。TCAのカバレッジは単に故障を数えるのではなく、故障の発生確率を考慮することで、すべての故障モデルに一貫的な指標を提供します。

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    図1:2つのネット間ブリッジの総クリティカルエリアの計算

TCA値の計算には、物理レイアウト情報が使用されます。ユーザー定義故障モデル(UDFM)ファイルには、各故障タイプ(セル間、ブリッジ、オープン、セル近傍)のモデルが格納されます。cell-awareまたはautomotive-grade ATPGをお使いの方は、UDFMファイルをご存じかもしれません。UDFMファイルは、レイアウトアウェアおよびセルアウェア故障診断に使用されるテストパターンを生成するATPGツールへの入力となります。TCA故障データが含まれるUDFMファイルをATPGツールに読み込んでパターンに適用することで、TCAの順にパターンを並べ替えることができます。

TCAを使ってできる主なことは次のとおりです。

  • 最も効果的なパターンの選択
  • パターンタイプとカバレッジのターゲットを選択
  • 新しいパターンタイプの有効性の見極め
  • 故障検出の可能性によってパターン価値を格付け
  • パターンを自動的に並べ替え、選択
  • ATPG実行中、複数の故障モデルをターゲットにすることでより小さいパターンセットを作成

チップのデジタルロジック部のすべての故障に対する総クリティカルエリアの計算を商用ATPGツールで利用できるようになったのは、これが初めてです。TCAを使って車載用ICの効果的かつ効率的なテストパターンを構築することで、デバイスはISO 26262の品質ガイドラインを確実に満たすようになり、市場での競争力を獲得できます。