千葉大学と国立天文台(NAOJ)は9月10日、NAOJのスーパーコンピュータ(スパコン)「アテルイII」の全CPUコア4万200個をすべて稼働させて、データ量3PBの一辺が96億光年、粒子数2.1兆個の世界最大規模のダークマター構造形成シミュレーションを実施し、そのうちの100TB以上のシミュレーションデータ「Uchuu Simulations」をインターネット上に公開したことを発表した。
同成果は、千葉大の石山智明准教授らの国際共同研究チームによるもの。この国際共同研究チームは千葉大とスペイン・アンダルシア天体物理学研究所を中心に、米・バージニア大学、豪州・スウィンバーン工科大学、伊・ボローニャ大学、仏・エクス=マルセイユ大学、スペイン・欧州宇宙天文学センター、アルゼンチン・ラ・プラタ大学、チリ・ラ・セレナ大学に所属する計14名の研究者によって構成されている。詳細は、英国王立天文学会が刊行する「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。
宇宙には、我々が電磁波を用いて観測可能な物質に対し、あらゆる電磁波を用いても観測でないダークマターが、質量換算で5~6倍程度存在すると見積もられている。宇宙初期の微小なダークマター密度ゆらぎを多数の粒子で表現し、粒子間にはたらく重力を計算することによって、ハローや大規模構造がどのように形成、進化してきたのかを追いかけていく「構造形成シミュレーション」が宇宙の大規模構造の解明に活用されるが、これまでの多くのシミュレーションは、計算資源の問題やプログラムの性能が不十分であるなどの理由から、空間体積もしくは質量分解能のどちらかが不足しているもので、観測と直接比較するのが困難だったという。
そこで今回の研究では、スパコン「アテルイII」の全システムである4万200個のCPUコアを用いた「大規模実行」(XC-S)を用いて、世界最大規模のダークマター構造形成シミュレーションを実施することにしたという。
「Uchuu(宇宙)」と命名されたこのシミュレーションでは、一辺が96億光年にわたる広大な空間体積と、高精度な模擬カタログの作成に必要な質量分解能が両立されており、従来の課題が解決されることとなった。Uchuuシミュレーションでは、2.1兆体の粒子が用いられ、矮小銀河から巨大銀河団までのスケールの構造形成や進化を追うことを可能としたという。
Uchuuシミュレーションの全データは3PBで、それを高性能計算技術を駆使して圧縮することに成功。ハローの形成と進化の情報に縮約した100TB程度のデータが、現在、誰でも容易に扱える形式でインターネット上に公開された。
研究チームでは、このデータを基にして、今後のすばる望遠鏡をはじめとする世界中のさまざまな大規模天体サーベイ観測データとの比較検証において、有用な模擬カタログの整備が加速されることと期待されるとしているほか、自分たちでも模擬カタログの作成を進めているとしており、そちらも近日中にインターネット上に公開する予定だとしている。
また、今回のシミュレーション結果から、現在から約130億年前に銀河系と同程度の質量のハローがすでに無数に形成されていて、銀河系やアンドロメダ銀河のような銀河がすでに存在し、その中心には超巨大ブラックホールが存在していたかもしれないこと、ならびにこのような初期の宇宙における銀河、活動銀河核の一部は、銀河団や、約100億年前に宇宙で観測される原始銀河団など、非常に大質量の天体に進化した可能性もあるということが示されたともしている。
なお、今回の研究を牽引した千葉大の石山准教授は、「1つの天体の進化を観測で追い続けるのは困難ですが、このシミュレーションでは進化をたどることができます。シミュレーションの中で進化する銀河を観察することで、銀河団やその中に存在する銀河団銀河の形成、進化のプロセスに関する理解への寄与が期待されます」と、今回の研究の意義と今後の期待を述べている。