国立成育医療研究センター(NCCHD)と国立国際医療研究センター(NCGM)は9月10日、国内最大の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者のデータベース「COVID-19 Registry Japan」を用いて、COVID-19の小児患者による入院例の疫学的・臨床的な特徴を分析した結果、無症状の患者は308人(30%)、何らかの症状があった患者は730人(70%)で、症状のあった患者のうち、酸素投与を必要としたのは15人(1.45%)、死亡例は0人と、多くは酸素投与などの特別な医療行為を必要としない軽症であることが明らかになったと発表した。
同成果は、NCCHD 小児内科系専門診療部 感染症科の庄司健介医長、NCCHD AMR臨床リファレンスセンターの秋山尚之主任研究員、同・松永展明 臨床疫学室長、同・浅井雄介主任研究員、NCGM 国際感染症センターの鈴木節子氏、同・岩元典子医師(総合感染症科医師兼任)、NCCHD 小児内科系専門診療部 感染症科の船木孝則医長、NCGM 国際感染症センター兼AMR臨床リファレンスセンターの大曲貴夫センター長(理事長特任補佐/DCC科長/感染症内科医長併任)らの研究チームによるもの。詳細は、小児感染症学会が刊行する学術誌「Journal of Pediatric Infectious Disease Society」に掲載された。
レジストリ(データベース)のCOVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)は、COVID-19感染者における重症化する患者の特徴や経過など、さまざまな点について明らかにすることを目的とした研究で、患者の生年月日や入退院日などの「基本情報」、症状や意識レベル、酸素療法の状況といった「臨床情報」など、さまざまな情報を集めており、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)関連のデータベース(レジストリ)としては国内最大のものである。
しかしCOVIREGI-JPでは、これまで小児患者に関する解析は行われてこなかったという。そのため、小児の新型コロナ患者の多くが軽症と言われていながらも、その詳細はよくわかっていなかったという。
そこで今回の研究では、2020年1月~2021年2月の間にCOVIREGI-JP登録された18歳未満の新型コロナ患者を対象に、患者の細かな症状、入院期間、患者背景などのデータを集計・分析が実施された。期間中に登録された3万6460人のうち、今回の対象となった18歳未満の患者は1038名で、その中で入院時にまったく症状がなかった患者は308名(29.7%)だった。
これは、隔離目的や、保護者が入院してしまったために子どもの面倒を見る人がいないなど、社会的理由での入院例が多く存在することが示唆されるという。
一方、何らかの症状があった患者は730名で、そのうち、酸素投与を必要とした患者は15名(2.1%)。また、死亡した患者は0人で、この期間の小児新型コロナウイルス感染症は軽症であったといえるとするほか、無症状者と比べると、症状のある患者では、「2歳未満」「13歳以上」「何らかの基礎疾患のある患者」の割合が高くなっているのが確認されたとした。ただし、基礎疾患のある患者の割合については統計学的な有意差はなかったとする。
38℃以上の発熱については、症状のある患者の10.3%に確認されたほか、特徴的な症状の1つである味覚・嗅覚異常は13才以上において20%以上に確認されたともしている。
入院期間の中央値は8日(人数が最多なのは9日、不明を除いて最長は64日)で、無症状者、有症状者で変わらなかったともする。研究チームでは今後、小児の入院適応やワクチン接種の対象などを考えていく上で、今回研究結果がその基礎データとして利用されることが期待されるとしている。
なお、今回の研究はデルタ株がまだ日本に存在していない時期に実施されているため、小児に対するデルタ株の影響については評価できていないとしている点に注意が必要である。