「まだ着かないの?」 車で長距離を移動中に、ほとんどの親が子どもからそう聞かれたことがあると思います。なぜなら率直に、車に乗っているのが退屈だからです。近い将来に自動運転が普及すれば、それまでは運転という役割を与えられていた「ドライバー」でさえも同じような気持ちになるかもしれません。
その一方で、ジェットコースターやテーマパークの乗り物のようにワクワクするものを楽しんでいる子どもから、「まだ終わらないの?」と聞かれたことはめったにないはずです。そこでセレンスは、そのような体験を車に乗っている間に提供できたらと考えました。今回の記事では、その目標を達成するためのステップを考えてみましょう。その中には、現在すでに実現しているものもあれば、実現まで数年を要するものもあります。
ステップ1:車の周辺環境に関する情報に乗員がアクセス可能に
車の周辺ではさまざまなことが起こっており、状況は常に変化しています。では、ドライブ中に“周辺の見るべき情報”を車が教えてくれるとしたらどうでしょうか。
「Cerence Tour Guide」は、名所や見どころに関する専門的で楽しい情報を車の乗員に直接伝えます。また「Cerence Look」によって、それをインタラクティブな体験にすることも可能です。ダイムラー社は先ごろ、Cerence Lookを「Mercedes-Benz Travel Knowledge」として新型Sクラスに導入しました。その目的は、外部環境の「デジタルツイン」をクラウド上に作成し、それを利用してコネクテッドカーからすべての情報にアクセスできるようにすることです。
ステップ2:ウィンドウおよびフロントガラスの活用
現在、車のウィンドウは、周辺を見えるようにするというたった1つの役割しか果たしていません。しかし、ウィンドウに追加情報やコンテンツを表示する(リンク先の動画参照)など、ドライブエクスペリエンスに関してより大きな役割を与えられるとしたらどうでしょうか。
それを拡張現実(AR)オーバーレイで実現し、見ているものに関する情報や、誰もが知っている独立戦争などその場所の100年前または200年前の情景が表示されるのを想像してみてください。もちろん、そのような情報を表示するために、2019年にベルリンのIFAで行ったデモ(リンク先の動画参照)のように、フロントカメラの映像とARを組み合わせ、これまで以上に大きな車内タッチスクリーンを使用することも可能です。
ステップ3:車の内装やシートの活用
車のシートは、ヒーターやベンチレーター、マッサージ機能などを内蔵しているモデルもあり、もはや座るためだけのものではありません。アンビエントライトなどの他の内装機能と併せて、ドライバーのリラックスやリフレッシュのために、車のシートが役立っています。それらの機能はたいてい「疲れた」や「ストレスを感じる」といった音声コマンドで起動させることができます。
車のシートは、さまざまな方法でより大きな役割を果たすことができます。セレンスは先ごろ、DFKI(ドイツ人工知能研究センター)のスマートテキスタイルを使用したプロジェクトを実施し、いくつかのコンセプトを調査しました。ユーザーフォーカスグループの参加者は非常に創造力に富んでおり、以下をはじめとする多くのアイデアを考案してくれました。
最も興味深かったアイデアとして「シートにアクチュエーターを内蔵させてシートの形状変化を可能にし、ユーザーが特定の方向に注目するよう促す」というものがありました。
DFKIのチームは、この機能の実用レベルのプロトタイプを製作し、それを、乗員が落ち着かない時などシートをつかんだ時に検知するセンサーを内蔵させるというもう1つのアイデアと組み合わせました。
このような革新的なアイデアは、何か重大なことを見落とさないようにしたり、また体験の没入感がありすぎるかを検出したりするのに役立ちます。
ステップ4:環境の拡張
ステップ1のように、周辺環境とのインタラクションが可能になれば素晴らしいですが、その体験をさらに向上させられるとしたらどうでしょうか。5Gのような技術によって、車の位置情報が(GPS以上に)向上するため、より多くのV2X(Vehicle-to-X)機能が可能になります。
例えば、アニメーションで動く景色や、特殊な広告掲示板、ビルのライトアップ、音響効果など、車が通り過ぎる瞬間に「作動する」ものが車外に待ち構えていたらどうでしょう。特定の地域を実質的にマルチメディアツアーの「舞台」として設定できる可能性もあります。あるいは、街全体をそのような地域として設定できれば、車の移動は決して退屈なものにはならないでしょう。
こうしたビジョン全体がいつ実現するかは分かりませんが、10年後の車の運転、あるいは自動運転レベルが進んだ結果としての自動運転は、現在とはまったく異なる体験になっていることは間違いありません。その一翼を担うものが、ここで言及した技術の中にもきっとあるでしょう。それらが現実のものとなることを待ち遠しく思います。
著者プロフィール
ニルス・レンケ(Nils Lenke)Cerence
アプリケーション部門 バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャー
ドイツ ノルトライン=ヴェストファーレン州アーヘンの拠点にて、Cerenceの前身であるニュアンス・コミュニケーションズ・オートモーティブを含む15年以上、AI、機械学習、ソフトウェア開発の研究に従事