慶應義塾大学(慶大)は9月8日、健常者を対象に40Hzガンマ周波数帯域のバイオレット光を照射する眼鏡を用いた臨床研究を行った結果、40Hzの白色対照光と比べ、認知機能に関わる可能性のある脳波変化を引き起こすことを確認したと発表した。
同成果は、慶大 医学部精神・神経科学教室の野田賀大特任准教授らの研究チームによるもの。詳細は、学際的総合ジャーナル「Journal of Personalized Medicine」に掲載された。
近年、脳神経機能を物理化学的に神経修飾する医学技術「ニューロモジュレーション」の光生物学的な臨床応用の研究が進められるようになってきたという。
ヒトの視覚情報処理において、脳内の視覚系に関わるアルファ波と、認知機能に関わるガンマ波の機能的結合は、重要な役割を果たしていると考えられており、例えば30~70Hzのガンマ波は、脳内の空間的に異なる領域同士の機能を結びつける役割もあるとされている。
バイオレット光は、375nmの波長を持つ可視光線で、網膜神経節細胞をはじめとした中枢神経系に発現しているOPN5受容体にて感受されることを特徴とするが、外部からのガンマ周波数帯のバイオレット光を用いた刺激が、ヒトの脳波に与える影響を実際に調べた研究はこれまでなかったという。
そこで研究チームは今回、40Hzのガンマ周波数帯のバイオレット光刺激が、ヒトの脳波活動に及ぼす特異的な影響を同条件の対照白色光と比較検証することにしたとする。そして、健常被験者を対象としたバイオレット光による臨床研究を実施したところ、認知機能の改善と関連する可能性のある脳波のニューロモジュレーションを実証したという。
具体的には40Hzのバイオレット光視覚刺激によって、光刺激中には左前頭部におけるアルファ位相およびガンマ振幅の有意なカップリング増強が起こり、光刺激直後には右中心部における同カップリング増強が引き起こされることが示されたとしている。
脳の中では、シータ波やアルファ波などの比較的ゆっくりとした脳波リズムの位相と、ガンマ波をはじめとした速い脳波リズムの振幅が生理学的に適切なタイミングで組み合わされることで、効率的な情報処理がなされることが知られているほか、ヒトを対象とした研究からは、その位相・振幅カップリングの増強が認知機能のパフォーマンスと関連していることが報告されているという。
また、健常被験者に対する40Hzバイオレット光の短期的照射は眼をはじめとした身体に対して、明らかな有害事象をもたらさないことも確認されたとしており、研究チームでは、今後は軽症のうつ病患者を対象に、同40Hzバイオレット光照射を行う特定臨床研究を実施することで、うつ症状や認知機能に対する効果の検証と、それらに関連した生物学的治療メカニズムの解明を目指していく予定としている。