日本IBMは9月9日、オンラインで記者説明会を開催し、ハイブリッドクラウド環境のために設計・開発したIBM Power10プロセッサ搭載の初の製品となる「IBM Power E1080サーバ」の出荷を同17日から開始すると発表した。
IBM Power10プロセッサ搭載初の「IBM Power E1080サーバ」
Power E1080とクラウドベースの「IBM Power Virtual Server」によるハイブリッドクラウド環境では、オンプレミス上にある基幹アプリケーションに追加のミドルウェアやアプリケーションの変更を必要とせず、スムーズにクラウドに移行することができるという。
新サーバは5Uの本体ノード、2U制御ユニット、4UのI/O拡張用のI/Oドロアーで構成し、本体ノードは最大4ノードまでの拡張、I/Oドロアーは1ノードあたり0~4台、最大16台まで拡張が可能。
プロセッサは同社が設計し、サムスン電子の7nmプロセスを使用して製造した商用プロセッサのIBM Power10を搭載。前世代のPower E980と比較して、ソケットとシステムレベルでコアあたりのパフォーマンスが最大30%向上し、処理性能が50%以上向上させている。
コア数は10コア、12コア、15コアとニーズに合わせて選択できる。CPUの面積は600平方ミリメートル、180億トランジスタ(Power9は80億トランジスタ)、Single Chip Module(SCM)またはDual Chip Module(DCM)となる。
日本IBM テクノロジー事業本部 IBM Power事業部 製品統括部長の間々田隆介氏は「一番のメリットは多様な機能が追加されたことと、パフォーマンスが向上したことだ。AIの実行速度を高速化させる回路や新しいセキュリティの命令セットなどが搭載され、メモリインタフェースにはOMI(OpenMemory Inteface)を搭載し、高速化を図っている」と説明する。
また、未使用CPU容量の拡張・縮小や追加で使用したリソースの使用分だけ支払うモデル「Power Private Cloud with Dynamic Capacity(Dynamic Capacity)」により、コスト効率よくリソースを拡張することが可能。これにより、サーバの乱立や長い調達プロセスを回避しつつ、運用効率と柔軟性を向上させることができるという。
さらに、コアあたりのOpenShiftコンテナのスループットがx86ベースのサーバと比較して4.1倍高く、単一の筐体で多くのワークロードを同時にデプロイすることができ、オンプレミスシステムでは初となるRed Hat Enterprise Linuxと、Red Hat OpenShiftの両方で分単位の課金のサポートを予定している。
セキュリティ面では処理性能に影響を与えることなく、透過的なメモリ暗号化機能を実装。Power9と比較すると、Power10ではコアあたりの暗号化エンジンの数が4倍と暗号化処理が高速になり、前世代のIBM Powerサーバと比較して、AES暗号化のコアあたりの処理が2.5倍高速となっている。
加えて、コアごとに4つのMMA(Matrix Math Accelerator)エンジンを搭載し、前モデルと比較してAI推論の精度を最大5倍以上向上させることができるほか、ONNX(Open Neural Network Exchange )もサポート。TensorFlowやPyTorchなどの最も一般的なフレームワークを使用して、ONNXで利用可能な学習済みのAIモデルは、コードの変更を必要とせずにx86ベースのサーバから新サーバにデプロイすることを可能としている。
組織を再編し、顧客のビジネス変化に対応可能な体制を構築
近年、消費者のニーズや市場が大きく変化する中、必要なアプリケーションや知見を必要な時に必要な場所で安全に活用できるプラットフォームが求められている。
2021年にIBM Institute of Business Valueが実施したCEO調査によると、調査対象3000人のCEOのうち、56%が「今後2~3年の間に最も積極的に推進することは何か」という質問に対して、業務の俊敏性と柔軟性強化の必要性を強調している。多くの企業は、このニーズに対する答えをハイブリッドクラウドコンピューティングモデルに求めているという。
こうした背景をもとに、日本IBM 理事 テクノロジー事業本部 IBM Power事業部長の黒川亮氏は「例えば、米ファイザーは世界中にワクチンを届ける流通、生産、研究開発の仕組みはIBM Power10が支えており、予測不可能な社会・経営への要求に俊敏に応える動的で効率的な拡張性が必要となる。臨床のデータはデリケートな扱いが求められるため、データアクセスとプライバシーが強固なセキュリティで守られる必要があるとともに、システム自体は持続的にパンデミックの先につながる進化を遂げなければならない。新サーバはx86サーバと比較してコアあたり2.5倍の処理性能による脱炭素を可能としているほか、プロセッサレベルのメモリの暗号化を実現している」と述べた。
新サーバの発表に先立ち、同社ではサーバ事業と分割するとともにメインフレーム事業と切り離して新たにIBM Power事業部として独立させている。Power事業部の90%はパートナーとの協業からスタートするため、2021年初から夏季集中研修を含めて過去33回、約5000人に対して、パートナーファーストの取り組みを実施。
また、ブログやソーシャルメディアを通じて、SAP HANAをはじめとした業務におけるPower10の価値、先行者メリットを望む顧客にはPower10のシミュレータの環境を提供してきた。その結果、有識者の知識の最新化を図るとともに、若手エンジニアの台頭がブログなどでの投稿で底上げができ、将来のPower10および顧客のビジネスの変化に対応可能な体制を構築している。
新サーバが提供する4つの“摩擦レス”
新サーバについて黒川氏は「摩擦レスなハイブリッドクラウド経験を提供する」と力を込める。これは、ミッションクリティカルなワークロードをハイブリッドクラウドにスムーズ(摩擦レス)に拡張することができることを指す。Power10はオンプレミス、オフプレミスいずれかを選択してもメーカー、技術が変わらないプラットフォームであり、俊敏性と結果を求める経営からの要請に対して、4つの“摩擦レス”を提供するという。
1つ目はビジネス要件に対する摩擦レスであり、物理的な拡張を伴わずにソフトウェアで分単位での拡張を可能としているほか、ダイナミックキャパシティを利用すればCPU、メモリ、OSを顧客が利用した使用分だけ分単位での支払いを可能としている。OSにはIBM i、AIX、Linuxを含み、オンプレミス初のRedHat OpenShiftも従量課金対象となっている。
2つ目はセキュリティの摩擦レスとなり、遅滞なく全トランザクションが通過するメモリで暗号化を提供し、業務レスポンスに対する遅延の抵抗、アプリケーションの変更なく、ハードウェアを入れ替えるだけでメインフレームレベルの高いセキュリティを導入できるという。
3つ目は増加するデータと分析の摩擦レスで、分析者が8割ほど時間をかけるデータ処理時間を短縮すると同時に、コアに搭載されたAI推論エンジンによりGPUを介することなく、CPU内で摩擦レスに分析を経て知見の提供を可能としている。ONNXで利用可能な学習済みAIモデルをコード変更不要で稼働が可能。
4つ目は安心・安全なインフラ構築に対する摩擦レスとし、CPU処理のリトライ・リカバリに加え、SMPインターコネクトをはじめとしたケーブル技術は自動回復技術を持ち、Power Virtual Serverとの連携で災害対策・BCPの高度化が図れるとしている。
なお、同社では環境省の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」規定にもとづき、電力事業者から購入した電気利用の削減により、年間20トン程度のCO2削減の効果が期待できる顧客向けにSDGs割引を開始。対象製品は今回発表したE1080サーバに加え、フラッシュストレージの「IBM FS5000 Storage」と保守の「IBM Power/Storage Expert Care」となる。
黒川氏は「顧客、ビジネスパートナーの現場ではシステムの安定稼働とDX(デジタルトランスフォーメーション)や働き方改革を含む、次世代システムの準備に取り組んでいる。俊敏性が求められる時代に一からシステムを構築することは現実的ではないため、新サーバはPower Virtual Serverと摩擦レスに連携する。また、Power Virtual Serverを介することで人的、言葉、業務的、APIも連携を可能とし、エッジからの膨大なデータを効率よく処理するとともに、インフラからシステム全体の進化を促す」と述べていた。