東京建物と慶應義塾大学SFC研究所(SFC)は9月8日、都心市街地における脱炭素型持続可能なまちづくりに関する共同研究契約を締結したことを発表した。東京都中央区の八重洲、日本橋、京橋エリアを対象にした共同研究「M-NexT(エムネクスト)」を開始するとのことだ。
脱炭素化に向けた動きは地球規模で加速しており、今年4月には日本でも、2030年度の温室効果ガスを2013年度から46%削減する目標を設定した。こうした背景を受けて、特に2030年度までに100カ所の脱炭素先行地域をつくる方針をはじめ、地域脱炭素の行程と具体策を記した「地域脱炭素ロードマップ」が、今年6月に国・地方脱炭素実現会議から示されている。
東京建物が社会課題解決型のまちづくりを推進する、八重洲、日本橋、京橋エリアは多数の企業が集積する世界を代表するビジネス地区だ。2020年代後半にかけては複数の大規模再開発の竣工も予定され、今後も更なる発展を遂げていくエリアでもある。脱炭素型まちづくりの実現は、同エリアの持続的発展のためにも非常に重要とされる。
一方で、脱炭素型持続可能なまちづくりを進めていくにあたって、「まちの捉え方」や、カーボンニュートラルへの進展を定量的に測定する「可視化の手法」が確立されていないことが課題となっている。
SFCは、食料(F)、エネルギー(E)、水(W)(以下、FEW)の3つの視点でまちを複合的に捉えて、FEWprintという独自の評価ツールで数値化する、脱炭素社会・持続可能なまちづくりを支援するプラットフォームとして「M-NEX(エムネックス」を開発した。両者はこれを活用して、都心市街地における脱炭素型持続可能なまちづくりに関する共同研究を開始するとのことだ。
同協同研究は、フェーズ1(ビルへの適用)とフェーズ2(まちへの適用)の2段階で実施される。現在行われているフェーズ1では、東京建物らが保有する東京スクエアガーデンに対してM-NEXを適用している。省エネ、および創エネといった環境取組みの効果をFEWprintで評価し、カーボンニュートラルへの貢献を可視化する目的だ。今後予定されるフェーズ2では、フェーズ1の検証結果を東京都中央区の実証エリアへ拡大展開していく。
SFCが開発したM-NEXは、FEWのつながりを通じて脱炭素社会と持続可能なまちづくりを支援するプラットフォームである。同プラットフォームは、SFC教授 厳網林氏が率いる国際共同研究プロジェクトによって開発されたという。
世界全体のCO2排出量の約70%が都市に集中する中で、FEWの生産、流通、消費、廃棄などはそのうちの80%を占めているとされる。脱炭素型まちづくりはこれまで、建物や移動などセクター別に対応してきているが、FEWを相互に繋げることでトレードオフまたはシナジーによる新たな脱炭素化の効果が見込まれ、SDGsへの貢献も期待できるとのことだ。
同プラットフォームではFEWのつながりを通して、EWprintという独自の評価ツールを用いて、まちの現状ならびにデザインシナリオによる目標への到達方法と脱炭素効果を定量的に比較可能だ。なお、同プラットフォームはこれまでに、世界6都市に設置したリビングラボで同時に展開し、研究を進めてきたとのことである。同研究はM-NEXを都心業務地区に導入する初の試みであり、脱炭素型持続可能なまちづくりへの応用が期待されるという。