車のアナログ計器類が好きなあなたには残念なニュースです。ダッシュボードのデジタル化が進み、先ごろ公開されたメルセデスベンツEQSのHyperscreenデジタルダッシュディスプレイといった最新コンソールは大型化しています。

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    最新の車両に搭載される大型容量性タッチスクリーンは誤ったトリガーでも反応する弱点が有りますがとしますが、フォースセンシングボタンはこの問題を可決してくれます

従来のセンターコンソールタッチスクリーンは小さすぎると設計者は考えているため、メータークラスター、エアコン、インフォテインメント制御はすべて「Pillar to Pillar Display」とも呼ばれる1つの大型容量性タッチスクリーンに置き換えが進んでいます。ドライバーは今までは1つのボタンを押すだけで可能なことを、今までの小さなスクリーンだと複数スクリーンをスクロールしなければなりません。また、この場合、ドライバーは目線を道路から多くの時間離すことになり危険が増します。そのため画面は大きくなる必要があったのです。

ダッシュボードがタッチスクリーンになることで、前座席の乗員は幅広いアプリケーションにアクセスすることができます。しかし容量性タッチスクリーンは、指が画面に接近や触れる、など誤ったトリガーを判別できないのが弱点です。ダッシュボード全体が容量性スクリーンになるとこうした誤ったトリガーに反応してしまい、設定が変えられてしまいます。これを解決するため、設計者は “ホーム”または“オン”ボタンとして機能する場所をスクリーン上に設ける必要がありました。しかし、この場所はスマートフォンのように境界が定められておらず、モデルによって異なります。「フォースセンシング」はこれらの問題を解決してくれるソリューションとなります。

フォースセンシングとは、フォース(力)または圧力を加えることで機能をトリガーする入力、制御機能です。この機能を使うと、誤ったトリガーに反応することが避けられ、メニュー選択肢と連結することで入力の選択肢を拡大することができます。フォースセンシングは、タッチにより起動、その他機能を実行する前世代スマートフォンに広く採用されていました。スマートフォンメーカーは圧力を検知する、静的で境界の定められた場所をホームボタンとして用いました。ホームボタンは機械的に動くものではなく、触覚フィードバックにより、ボタンを押した感触をユーザーに伝えました。前世代のスマートフォンでも、タッチで歪むホームボタンがありました。

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    初期世代スマートフォンが提供するフォースセンシングホームボタン

車載アプリケーションでの誤ったトリガーを排除

フォースセンシングソリューションを採用することで、誤動作を軽減することが可能です。設計者は、圧力により画面の特定部分を起動する場所を作ればよいのです。設定された圧力が加えられない場合には機能はトリガーされません。したがって、デバイスをタッチしただけでは機能はトリガーされません。これは夜間には特に重要となり、誤ったタッチによりアンビエント光センサーを使用しても明る過ぎる画面が起動されるのを防ぎます。設定された圧力または力だけがコントロールパネル上に最小限の変形を起こし、適切な制御動作を実行します。力の強さや、制御面がどの程度変形すればトリガーポイントなるかは使う材料やシステムで決まります。

デジタル近接センサーの利点

圧力検知またはフォースセンシングソリューションを実現するにはいくつかの方法があります。圧力センサーを使うと価格が上がり、大きなPCBも必要となり、誤動作や動作の見落としを防ぐには信頼性が足りません。ディスクリート赤外エミッタとフォトトランジスタまたはフォトダイオードを使った光ソリューションの場合、これらの部品の高い許容差と低い解像度により高精度の実現は難しくなります。デジタル近接センサーに基づく光ソリューションはこれらの問題を解決します。   

ビシェイ社のデジタル近接センサーは、コスト効率良いフォースセンシングソリューションを提供します。AEC-Q101に準拠する「VCNL3030X01」を例とする近接センサーは赤外エミッタ、フォトダイオード、信号処理ICを1つのパッケージに内蔵します。

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    VCNL3030X01を用いることで、画面のわずかなゆがみを検知することが可能に

フォースセンシングアプリケーションでは、容量性タッチスクリーンの裏面に赤外線を放射、光がセンサーに反射し、信号を受信、処理します。解像度16ビットのセンサーは0~65536のデジタル値を出力します。その裏面からの反射光量の増加は、画面がセンサーに近づくことを意味し、出力値も増加します。つまり運転手または助手席の乗員が画面上のホームボタンを押すと、画面は50μm~100μm歪みます。画面内面に高反射性材料を近接センサーの焦点とするように設けると、フォースセンシングする領域が形成されます。

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    高感度近接センサーを利用したフォースセンシングの仕組みイメージ。左:反射面の裏に最小3mmの距離でセンサーを配置、中央:フォース(力)レベルの測定に高解像度が貢献、右:圧力により面が歪む。わずかな変化と歪みを検知

ビシェイ社のデジタル近接センサーにはI2Cインタフェースを利用したいくつかのプログラマブルな機能があり、フォースセンシングに最適です。エミッタ電流はプログラマブルです。

初期設計段階で画面の特定位置に向けた最適なエミッタ電流を確立します。エミッタ電流の較正が必要であれば、製造プロセスで2.5mAの間隔で5mAt~20mAに調整することができます。近接アプリケーションではエミッタはパルス化され、ビシェイ社センサーは1:40~1:160のオン/オフサイクルでプログラムできる4種のデューティサイクルを提供します。センサーは16ビットの解像度を提供し、これが容量性タッチスクリーンのわずかなゆがみを検知します。センサーは太陽光キャンセル機能を有し、あらゆる光環境にて機能します。センサーは超過するとインタラプト信号が出力されるプログラマブルなしきい値を提供し、マイクロコントローラが常にセンサーをポーリングする必要はありません。

用途例

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    用途例。左から、内装、操作ノブ、防水ダッシュボード、ゲーム機の圧力検知

近接センサーの標準距離曲線を以下に示します。y軸はデジタルセンサーの出力値です。この例の反射メディアは反射率18%のコダックグレーカードです。エミッタの順方向電流は50mAに設定しています。ピークカウントは1mm~4mm間で発生します。ピーク右側にはカウントの大幅な下げ(二次より大きい)が見られます。最大の解像度で信頼できる結果を実現するためには、検出範囲をピーク値の近くに設定し、機械的スタックアップの許容分を残します。ここではセンサーと高反射性入力面の間には2mmの検出距離があります。

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    約2mmでピーク解像度が発生する条件で、VCNL3030X01の出力値vs反射率18%のコダックグレーカードまでの距離

VCNL3030X01は、センサーと高反射性物質の間隔が2mm~3mmで、50μmの解像度、50μm間隔で200~400のデジタルカウントを出力値として提供します。すなわち、信頼性ある検出精度を実現し、温度、変動、材質変化、経年劣化といった環境が及ぼす影響に十分に対応できることが出来ます。

著者プロフィール

Jim Toal
Vishay
オプトエレクトロニクス部門ビジネスマーケティングのディレクター
Vishayは車載、消費者、産業メーカーに対する、赤外エミッタ、光検出器、光センサーのサプライヤー。 受動部品、アクティブ部品の幅広い製品も提供している