東北大学は9月2日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究により、宇宙で育てたモデル生物線虫において、微小重力環境に応じたエピジェネティックな変化を再現性よく発見し、身体作りが過剰に抑制されないように調節する機構が存在することを発見したと発表した。
同成果は、東北大大学院 生命科学研究科の東谷篤志教授らの研究チームによるもの。詳細は、医学から工学まで宇宙探査や宇宙環境での活動に関する幅広い研究を対象とした学術誌の「npj Microgravity」にオンライン掲載された。
宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に長期間滞在をすると、骨や筋肉が萎縮してしまうことが知られており、それを防ぐための運動の時間や薬の投与などが進められるようになっている。また、近年は、こうした骨や筋肉の問題だけではなく、ミトコンドリア代謝への影響として、遺伝子発現が変化することなども報告されるようになってきた。しかし、染色体レベルでの「エピジェネティックな変化」との関連性については、まだ詳しくはわかっていないのが現状だという。
日本において微小重力下での生物実験を行ってきた1人が東北大の東谷教授である。東谷教授が率いる研究チームが、モデル生物である線虫を用いて実施した宇宙実験から、宇宙飛行士と同様に線虫の筋やミトコンドリアの働きが、微小重力環境で成長した際に低下するということが報告されている。
今回の宇宙実験では、野生型とエピジェネティックな修飾に関わるヒストン脱アセチル化酵素遺伝子「HDA-4」の欠損変異体を用いた比較実験を実施。それらの線虫を微小重力環境と、宇宙で人工的に地球と同じ重力(1G)の負荷をかけた環境のそれぞれにおいて、4世代に渡って継続的に培養。そして網羅的な遺伝子発現の変化と共に、エピゲノム変化についての調査が行われた。
その結果、身体の成長を負に制御する新規「DUF-19」遺伝子群において、遺伝子発現量の変化と染色体ヒストンの修飾を介したエピジェネティックな変化が再現性よく連動することが判明。微小重力下では、HDA-4の働きによって身体作りが過剰に抑制されないように調節する、DUF-19遺伝子群のエピジェネティックな転写の抑制機構が存在することを明らかにしたとする。
今後は、宇宙飛行士においても微小重力環境による類似のエピジェネティックな変化が生じるのか、また地上の寝たきりなどによる廃用性萎縮においても同様の変化が生じるのかなど、ヒトに対する力学的刺激や運動とその変化に関わる研究への展開などが期待されるとしている。