岡山大学は9月2日、インクを作るときや、歯の詰め物(歯科用樹脂)を作るときなど昔から幅広く利用されている化学物質「重合開始剤」の毒性評価を実施した結果、マウスを使った動物実験で、乳がん組織が徐々に増大することを見出したと発表した。また、一部の乳がん治療薬が増大効果を抑制することがわかったことも合わせて発表され、そのことから女性ホルモンの一種である「エストロゲン」の作用を乱す内分泌かく乱物質である可能性が示唆されたとした。
同成果は、岡山大病院 薬剤部の河崎陽一薬剤主任、同・千堂年昭教授(現・就実大学薬学部特任教授)らの研究チームによるもの。詳細は、米国の毒性学を扱った学術誌「Current Research in Toxicology」に掲載された。
長年使われているというだけで、根拠もなく安全と思われてしまっている化学物質が存在していることが分かっている。インクを作るときや、歯の詰め物を作るときなどに幅広く利用されている「重合開始剤」もその1つで、インクジェットプリンター用の紫外線(UV)硬化型インクを製造するときに、化学反応を促進させる目的で利用されているが、UV硬化型インクはインクジェットプリンターだけでなく、紙包装、シールラベル、プラスチックの印字やチラシ、カタログなどの商業印刷においても幅広く利用されている。しかし、あまり詳しい毒性の評価はこれまでされてこなかったという。
研究チームは2011年、重合開始剤の調査を行った結果、乳がん細胞を増殖させる効果があることを報告していたが、その際は、体内の環境を人工的に作り出した場合に得たもの(細胞実験)であったため、生体内で同じ現象が起こるかは不明だったことから、今回の研究では、細胞実験ではなくマウスを用いた動物実験を実施することにしたという。
実際に乳がん細胞を埋め込まれたマウスに重合開始剤を曝露したところ、乳がん組織が徐々に増大することが見出されたほか、一部の乳がん治療薬が増大効果を抑制することも確認されたという。この結果から、体内に入った重合開始剤は、乳がん組織に到達し、女性ホルモンの一種である「エストロゲン」作用を発揮したことが示唆されると研究チームでは説明している。
この結果は重合開始剤が「内分泌かく乱物質」である可能性があるということを示すもので、本当に内分泌かく乱物質であるのなら、生体に望ましくない作用を示す問題のある化学物質ということになると研究チームでは指摘している。そのため、今回の研究成果について研究チームでは、現在幅広く使用されている重合開始剤の安全性の再評価において、重要な意味を持つ結果となったとしている。