GaNパワー半導体ベンダの米Transphormは、2021年8月1日付で、富士通セミコンダクター(FSL)の子会社「会津富士通セミコンダクターウェハーソリューション」で行ってきたGaNパワー半導体の製造に関する合弁事業を解消し、会津富士通セミコンダクターウェハーソリューションを買収したことを明らかにした。
同買収は、Transphormと米国の投資会社JCPCapitalが共同で設立したGaNovationによるもので、買収に伴い、会津富士通セミコンダクターウェハーソリューションは社名を、その略称としていた「AFSW」へと変更したという。
この取引は、GaNovationが会津富士通セミコンダクタウェハーソリューションの富士通持ち分である51%の株式を買収する形で行われ、買収の完了後は、TransphormがAFSWの株式の25%を保有し、残りをGaNovationが保有する形となっている。ただし、実質的にTreansformが技術管理や工場運営にあたることとなる。Transphormによると、これまでの出資比率が下がることで、資金的な負担が5割削減できることとなるとしている。
会津富士通セミコンダクタウェハーソリューションの親会社であったFSLおよび、その親会社である富士通からはニュースリリースの形では、今回の取引については発表されておらず、2021年9月3日段階では、FSLのWebサイトには「会津富士通セミコンダクターウェハーソリューション株式会社は、2021年8月1日付けでGaNovation傘下に入り、社名を株式会社AFSWに変更しました」と記載されているだけで会社へのリンクも消えている状態となっている。
なお、JCPCapitalの創設者兼マネージングパートナーであるDavid Cong氏は、「GaNovationは、今後数年間で世界有数のGaNパワー半導体ファブであるAFSWに多額の出資をして、GaNウェハの製造を拡大するだけでなく、急成長しているGaNベースの高速充電器やアダプタの分野でのビジネスの成長にも貢献する」と述べている。
半導体からの撤退を進める富士通
富士通は2010年代に入ると、半導体事業からの撤退姿勢を明確に打ち出し、岩手工場のデンソーへの売却、300mmに対応する三重工場のUMCへの売却、会津若松の200mm工場のON Semiへの売却ならびにマイコン・アナログ事業のSpansion(当時。後にCypress Semiconductorと合併、現在はInfineon Technologiesが買収)に売却してきたほか、システムLSIの設計事業をソシオネクストとして分離独立させるなど、着々と本体からの切り離しを進めてきた。今回、AFSWの売却により、富士通の半導体製造事業のほとんどが切り離されたこととなる。この間、多くの同社に所属していた半導体技術者に対するリストラも進められることとなった。
半導体は現在、成長産業であったり国の命運を握る基幹産業などと一部からは言われているが、その割には日本の半導体産業を見ると、多くの企業で事業の縮小や撤退・売却が現在進行形で行われており、株価も非採算部門の切り離しによる安定経営指向ということで値上がりする傾向にある。
富士通に限らず、日本の電機産業のほとんどが、安定経営の妨げになるとして半導体事業から全面撤退した(あるいはしようとしている)。その一方で、電機メーカー各社はITソフトウェアベンダーの大型買収を進めているが、GAFAの動きなどをみれば、優秀なソフトウェアの価値を高めるために、むしろ自社で半導体を設計する、という方向に向かっており、高度なソフトウェアと高度な半導体の両輪で、最高のプラットフォームを生み出そうとしているのが現状であり、決してソフトウェアだけを重視している状態ではない。
経済産業省は、日本の半導体産業の復興を目指した施策を打とうとしているが、先般開催されたセミコンポータル主催のマーケットセミナーにおけて行わた半導体および関連事業従事者へのアンケートでは、53%の回答者が「日本の半導体産業の世界売上高シェアは、失われた過去30年の延長でゼロに向かう(経済産業省が6月に発表した半導体戦略の開示資料に描かれている最悪のシナリオ)」と答えたほか、42%が現状の10%前後から変化がない」と答え、改善するという回答は5%ほどであった。経済産業省は、そうした最悪のシナリオを回避することの1つの策としてTSMCの誘致を進めている模様だが、果たしてそれが成功するのかどうかは未知数の状態である。