眠っているときに夢を見る「レム睡眠」中は、大脳皮質で活発な物質交換が行われて脳がリフレッシュしていることが分かった、と筑波大学と京都大学の研究グループが発表した。睡眠中のマウスの脳の血流を詳しく観察した成果で、新たな認知症の治療法開発につながる可能性もあるという。
哺乳類の睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠から構成され、夢は主にレム睡眠中に見ることは広く知られている。研究グループによると、ノンレム睡眠中は成長ホルモンの分泌上昇やストレスホルモンの分泌抑制などが起き、身体の回復に関係することが分かっていた。
一方、レム睡眠は急速な眼球運動を伴い、脳が活動して夢を見ながらも体は休息しており、レム睡眠と心身の健康維持との関係は未解明だった。またレム睡眠が少ないとアルツハイマー病などの認知症リスクや死亡リスクが高まるという報告はあったが、詳しいことは分かっていなかった。
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構と京都大学大学院医学研究科を兼任する林悠教授らの研究グループは、睡眠中のマウスの血流に着目してレム睡眠中の脳の状態を解明する研究に着手した。
脳の血流は心拍出量の15%を占め、神経細胞に酸素や栄養を届け、不要な老廃物を回収する物質交換の役割を担う。また血流の失調はアルツハイマー病などの進行に深く関わると考えられながら、個々の毛細血管の血流を観測する方法がないという課題があった。林教授らは、波長が長いレーザー光によって生体組織の深部イメージングを可能にする「二光子励起顕微鏡」という特殊な顕微鏡を用いることで、睡眠中のマウスの脳で毛細血管中の赤血球の流れを直接観察することを試みた。
その結果、大脳皮質のさまざまな領域で毛細血管に流入する赤血球数は、覚醒して活発に運動している時と深いノンレム睡眠中では差がなかった。しかし、レム睡眠中の赤血球数は覚醒している時の2倍近くになることが判明した。このことは、レム睡眠中は脳の毛細血管の血流が活発になり、大脳皮質の神経細胞が活発に物質交換を行っていることを示しているという。また、アデノシンという物質を生体内で受け止める受容体タンパク質が、血流上昇に重要な役割を果たしていることも明らかになったという。
研究グループはこれらの結果から、レム睡眠中は脳の毛細血管の血流量が上昇することで栄養供給や老廃物除去が行われ、脳がリフレッシュ状態になるとみている。また、レム睡眠が少ないと大脳皮質の活発な物質交換が損なわれ、結果として脳の機能低下や老化が進み、認知症のリスクも高まるとしている。
林教授らは今後、レム睡眠時間の割合と脳の老化や機能低下との因果関係を解明する予定で、レム睡眠の割合を効率的に増やす薬や行動療法を開発し、脳の機能低下や認知症を予防する治療法の開発につなげたいとしている。研究成果は米科学誌セル・リポーツに掲載された。
レム睡眠は1953年に発見され、数年後に夢は主にレム睡眠中に見ることも明らかになった。レム睡眠とノンレム睡眠があるのは複雑な脳を持つ哺乳類と鳥類だけとされ、2つの睡眠状態は脳の高等な機能と考えられながら、詳しいことは最近の脳研究でも多くの謎に包まれていた。
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