太陽光発電(PV)設備が増え続ける一方で、ソーラー・グリッドの供給側と需要側のアンバランスが大きな制約として浮かび上がっています。日中の時間帯は太陽光のエネルギーがたっぷり得られますが、需要は高くありません。つまり利用者は、使用量がピークになる時間帯の朝と夜に、割高なワットあたりの料金を支払うことになります。
住宅、商業施設、公共電力会社の太陽光設備向けのエネルギー貯蔵システム(ESS)では、需要が最も低い日中はインバータで発電エネルギーを貯蔵するかグリッドから電力を供給し、需要が高いときにはこの貯蔵したエネルギーを放出します。ESSをソーラー・グリッド・タイ・システムに追加すると、ユーザーは、「ピーク・シェービング」と呼ばれる手法で料金を抑えることができます。
本稿では、グリッドに接続された蓄電池搭載太陽光発電システムの設計上の考慮事項を取り上げます。
双方向の電力変換
従来の太陽光設備は、片方向のDC/ACおよびDC/DC電力段で構成されていますが、片方向変換方式は、ESSを組み込む際に大きな障壁になります。必要な部品やモジュール、サブシステムが増え、そのどれもが、既存の太陽光設備へのESS追加費用を押し上げます。
既存の太陽光設備に蓄電池を追加するには、バッテリを充電・放電する2つの経路を結合して、力率補正(PFC)とインバータ電力段で構成される1つの経路にしなければなりません。しかし、2つの片方向電力コンバータの代わりになる双方向電力コンバータをどのように構築するのでしょうか。
図1に示す先進的な双方向電力トポロジを利用すると、グリッド、PVアレイ、バッテリ管理システムの間で、安全に効率良く電力を変換することが可能になります。このような電力トポロジでは、Texas Instruments(TI)のC2000リアルタイム・マイコンなどのマイコンがよく使われます。このようなマイコンは、1つまたは複数の電力段をそれぞれ制御することができ、ESS対応ソーラー・インバータの双方向電力変換アーキテクチャのデジタル制御を可能にします。制御にマイコンを使用することで、DC/ACおよびDC/DC変換を処理するパワー・スイッチに、より精巧なパルス幅変調(PWM)方式を利用できます。
ハイブリッド・インバータは、変換段の効率向上に有効ですが、複数の電力変換を行うESS搭載マイクログリッドでは、この効率向上がより重要になります。電力コンバータ・システムは、DC/DC変換を管理して、バッテリの充電・放電を行います。また、DC/ACおよびAC/DC変換を管理して、バッテリに貯蔵されたDC電力をAC電力に変換してグリッドに流したり、グリッドから戻したりします。
高電圧バッテリ
蓄電池が搭載されたマイクログリッド・システムでのバッテリの主な機能は、PVエネルギーを貯蔵し、要求があればグリッドに電力を送ることです。リチウムイオン・バッテリ・パックは、鉛蓄電池よりもユニットあたりの貯蔵容量がかなり大きくなっています。
電気自動車(EV)の分野では400Vのバッテリ・パックがよく使われるようになってきていますが、ソーラー・グリッド設備でもバッテリ・パックの電圧を48Vからさらに高めようとする動きがあります。しかし、どのように400Vバッテリ・パックの電力変換を管理すればいいのでしょうか。
より大規模なシステムにESSを組み込むための、システム制御と通信の機能を備えたマイコンに加えて、損失が少なく効率の高いパワー・スイッチによっても、エネルギー貯蔵システムの安全性と信頼性が向上します。SiCやGaN素材をベースとしたコンパクトなパワー・スイッチとリアルタイム・マイコンにより、さまざまなDCエネルギー貯蔵ユニットに対応できるように、双方向コンバータを改変できるようになります。図2をご覧ください。
コンバータの電力密度向上とスイッチング損失の削減に伴い、バッテリの電圧範囲の上昇に対応できるような電力変換システムに対処する上で、SiCやGaNなどのワイド・バンドギャップ半導体が重要な役割を果たします。また、電力変換システムにより、分散型発電システムの電力変動をバッテリ・パックでうまく管理できるようにもなるので、電圧がより高く広範囲になってもスマートで回復力のあるグリッド運用を実現できます。
最終的には、太陽光設備は、EVで使われるバッテリ・パックを真似ることになるかもしれません。現在EVで使われているバッテリ・パックを、グリッド接続ESSとして再生してリサイクルしようという考え方が広まりつつあります。
効率と自然対流に求められるワイド・バンドギャップ素材
スマートな壁面取付型貯蔵システムを構築するためには、最小限の自然対流冷却を利用した、放熱性が最適化されたインバータ設計にする必要があります。分散型電力アーキテクチャであれば、熱の集中をシステム全体に分散することができます。このようなアーキテクチャでは、必要なエネルギー貯蔵インバータがさまざまな電圧で高い電流レベルに対応し、急激に変化する負荷の過渡事象にも確実に応答できるようになります。
このようなシステムには、100kHz~400kHzのスイッチング周波数での高速スイッチングに対応し、保護機能も備えたゲート・ドライバが必要になります。スイッチングが十分に高速でないと、電力変換段で効率低下が見られる可能性があります。
ここで、SiCやGaNなどの、スイッチングが高速で電力密度が高いワイド・バンドギャップ素材が登場します。これらの半導体デバイスにより、ファン式冷却が不要なシステム設計が容易になります。ドライバと保護機能が内蔵されたTIのGaNデバイス「LMG3425R030」は、フォーム・ファクタがコンパクトであり、高い電力密度と高速なスイッチング機能を備えています。
このゲート・ドライバは、コントローラのデジタルPWM信号を、SiCまたはGaNの電界効果トランジスタ(FET)に必要な電流へと変換します。PWMベースのコントローラなので、複数の電力変換段で電圧と電流を正確にサンプリングできます。
C2000マイコンを使用した双方向高密度GaN CCMトーテム・ポールPFCリファレンス・デザインには、C2000リアルタイム・マイコンと、ドライバと保護機能が内蔵された「LMG3410R070」GaN FETを使用する、双方向トーテム・ポール・ブリッジレスPFC電源段が含まれます。この3kW双方向設計は、位相シェディングとアダプティブ・デッドタイムによって効率性を高め、非線形電圧ループによってPFCモードの過渡電圧スパイクを低減します。
電流と電圧のセンシング
高周波数スイッチングの電力設計には、電流と電圧の高精度のセンシングという課題があります。シャントを用いた電流測定は、精度が上がるだけでなく、反応時間が速くなって、グリッドに何か変化があればすばやく反応できるので、短絡やグリッド接続の切断が起こった場合にシステムをシャットダウンできます。
制御アルゴリズムには制御を目的とした電流センシングが必要なため、インバータ中心の設計には電流測定が不可欠です。外付けのシャントと絶縁されたアンプ/変調器および電源を用いた、絶縁電流測定に使用できる設計ソリューションがあります。例えば、3レベルの3相SiC AC/DCコンバータ・リファレンス・デザインでは、負荷電流のモニタリングに絶縁変調器「AMC1306」を利用します。「AMC3306」は、単一電源での動作を可能にするDC/DCコンバータ内蔵の次世代絶縁変調器です。
高電圧を使用するインバータ駆動のアプリケーションのさまざまな電圧ドメイン間でデータを伝送する必要があるデジタル信号については、絶縁デバイスを使用することで電圧の制約を乗り越えられるかもしれません。「ISO7741」といったデジタル・アイソレータを用いると、電圧の境界を超えて高周波数信号を伝達しながら、低電圧デジタル回路を高電圧ドメインから守ることができます。
電力コンバータは、電流が電圧と同相であるか確認するために、グリッドの電流を測定する必要があります。電流と電圧を測定することで、バッテリの充電電流に加え、インバータの動作と過負荷保護機能も制御します。
まとめ
AC/DCとDC/DCの電力変換を双方向に行うハイブリッド・インバータは、ここ数年のうちに従来のソーラー・インバータに取って代わるものと思われます。ソーラー・インバータの設計者は、ハイブリッド・インバータを使用することで、出力電力や電圧の範囲が広い電力変換を実装できるようになるでしょう。
蓄電対応ソーラー・インバータでは、バッテリ電圧の増加と、電圧範囲の拡大が重要な課題です。マイコンによる制御と、ゲート・ドライバと保護機能が内蔵されたワイド・バンドギャップ半導体といった基本的な構成要素により、高い効率と自然対流のニーズに加えて、このようなより高電圧で広範囲のバッテリ電圧に対応できます。
C2000リアルタイム・マイコンとGaNデバイス「LMG3425R030」は、蓄電対応ソーラー・グリッドの双方向送電の処理を可能にします。同様に、シャントを用いた電流と電圧のセンシングにより、より高電圧のバッテリと高速のスイッチング電力コンバータが安全かつ確実に動作できるようになります。
著者プロフィール
Jayanth RangarajuTexas Instruments