日本総合研究所(日本総研)は8月31日、近年激甚化する豪雨被害を防ぐための取り組みを紹介する説明会をオンラインで開催した。デジタル技術を使用した最新の治水事例と、「流域治水」の手法について紹介があったので、その様子をお届けしよう。

  • 日本国内でも甚大な被害をもたらす水害が頻発している 資料:日本総研

近年は、気候変動の影響によると考えられる水災害が各地で頻発している。1時間あたりの雨量が50㎜を超える強雨の発生件数は年々増加傾向にあり、21世紀末までに全国平均で降雨量が1.1倍、洪水発生頻度が2倍になると試算されている。

日本は歴史的にも水害の発生頻度が高く、治水インフラの整備は比較的進められている。それにもかかわらず被害が拡大している理由は大きく2つあるとのことだ。1つ目は地球温暖化による海水温の上昇によるもの、2つ目は治水インフラの不足である。

同社の創発戦略センター 石川智優氏は説明会の中で、「気候変動への対策はもちろん重要なのだが、日本だけでの実施は難しく長期的な視点で考える必要がある。一方で、既に日本国内に存在する治水インフラを見直すことはすぐにでも取り掛かることができる」と述べた。

  • 日本総研 創発戦略センター 石川智優氏

これまでの治水手法は過去の降雨量に基づいて統計的に計画されてきたが、「同様の手法では近年の降水量の増加に耐えられなくなってきている」と同氏は続けた。そこで、日本総研が推奨している手法が、治水ダムや堤防の建設のみに頼らない「流域治水」だという。

石川氏は、河川の氾濫をなるべく防ぐための対策として、水力発電のための利水ダムを治水に利用する、あるいは、一時的に水田に貯水し河川への流入を抑える田んぼダムを推進することを紹介した。田んぼダムは新潟県などで既に実証実験が開始しているとのことだ。

国内すべての利水ダムを洪水調節のために利用することを想定した場合、八ッ場ダム70個以上に相当する貯水量が期待できるという。同様に、雨水を一時的に水田に貯水する田んぼダムは、日本全国の水田で実施した場合に八ッ場ダム50個以上の貯水量が期待される。

  • 自治体や企業、住民が一体となって取り組む流域治水を紹介した 資料:日本総研

石川氏は水害対策における最新の取り組みの例として、秋田県のスマート農業の事例を紹介した。これは、水田の給排水を自動化して、水位をスマートフォンから確認および管理可能にするソリューションであるとのことだ。大雨時の水量を測定することで、田んぼダムの実用化に向けた性能を検討中だという。

  • 秋田県における田んぼダム活用事例の紹介 資料:日本総研

茨城県守谷市では、明電舎がIoT機器を活用した雨水マネジメントに取り組んでいる。河川の水位や下水道の水位データを収集しリアルタイムで可視化して、降雨時の水位予測や排水樋管操作の運用への活用を検証している。この観測データと雨量のデータをクラウド上で一元管理することで、監視体制の強化が期待されるとのことだ。

  • 明電舎によるスマート雨水マネジメント事例の紹介 資料:日本総研

続いて紹介されたのは石川県の例だ。同県では県内を流れる河川や県内のダム、さらに気象情報も含めたデータを一元管理するシステムを独自に開発した。同システムはPCおよびスマートフォンからアクセス可能であり、特にスマートフォン版は必要な情報の提供のみに絞ることで、住民が関心のある情報に素早くアクセスできるという。

  • 石川県における河川総合情報システムの紹介 資料:日本総研

石川氏は「流域治水は治水政策の大きなターニングポイントである」と述べ、「迅速な対応のためにもさまざまなデータを集約して統合管理するべき」と続けた。さらに、同氏は各種のデータを統合管理するためには、河川の近隣に住む住民との双方向でのコミュニケーションが重要である点を強調した。

また、流域ごとの治水を管理するには、施設や山間部からの情報収集を進めるだけではなく、指示命令系統を一つにすることが重要なのだという。加えて、流域住民からの情報もリアルタイムで収集して一元的に管理し、以後の被害予測などを迅速に発信していくなど、双方向での情報提供が必要があるとしている。

最後に同氏は、既存の治水インフラにデジタル技術を取り入れた流域施設全体の統合管理を推奨した。既存の治水インフラを最大限に活用するために、個々の施設からの情報を統合的に管理し、流域全体を大規模な貯留施設と仮想して管理することで、豪雨被害を最小限に抑えることにつながると説明した。

  • 流域DXの推進と「分散型治水」の推奨 資料:日本総研