京都大学(京大)は8月27日、レム睡眠中に脳の血流量が覚醒時やノンレム睡眠時の2倍になることが確認され、栄養供給や老廃物除去などの物質交換が活性化するリフレッシュ機構を発見したことを発表した。

同成果は、京大 医学部研究科の林悠教授(筑波大 客員教授兼任)らの研究チームによるもの。詳細は、ライフサイエンス全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Cell Reports」に掲載された。

レム睡眠とノンレム睡眠は、哺乳類の睡眠を構成する2種類の睡眠であり、レム睡眠中は脳がある程度活性化しているため、夢を見ることが多いが、ノンレム睡眠中は脳の活動は低下していることがわかっている。一方、身体は逆で、レム睡眠中に活動が低下し、ノンレム睡眠中はある程度活動的になっていることもわかっている。

成人したヒトの場合、総睡眠時間の約80%をノンレム睡眠が、約20%をレム睡眠が占めており、交互に繰り返していることが知られており、このバランスが取れていることが健康維持のためには重要なこともわかっている。

これまでの研究から、ノンレム睡眠中に成長ホルモンの分泌が上昇し、逆にストレスホルモンの分泌が抑えられるなど、ノンレム睡眠が作り出すホルモン環境が身体の回復に寄与することが示唆されてきた。その一方で、レム睡眠が脳や身体の回復にどのように寄与しているのか、つまり心身の健康維持との関係はよくわかっていなかったという。

今回の研究では、睡眠中のマウスの脳における血流が着目され、レム睡眠中の脳の状態の解明が進められた。

脳の血流は、心拍出量の15%という高い割合を占める。これは、脳の神経細胞が酸素を多く必要とするからで、特に大脳が発達しているヒトの場合は、脳だけで呼吸した酸素の約20%を消費していると見積もられている。そこで、今回の研究では、組織深部の観察ができる「二光子励起顕微鏡」を活用することで、睡眠中のマウスの脳の毛細血管内における赤血球の流れの直接観察を実施したという。

  • 睡眠

    レム睡眠中の毛細血管において、血流の上昇が確認された (出所:プレスリリースPDF)

その結果、さまざまな領野における毛細血管へと流入する赤血球数は、覚醒して活発に運動しているときと深いノンレム睡眠中には差がなかったが、レム睡眠中は2倍近くまで上昇することが確認されたという。

このことは、レム睡眠中は脳の毛細血管の血流が活発になっていることを意味するもので、大脳皮質の神経細胞は、レム睡眠中に活発に物質交換を行っていることを示唆するものであるという。そのため、成人においてレム睡眠の割合が少ないと、このような活発な物質交換が行われず、脳の機能低下や老化が進み、認知症のリスクが高まるものと考えられると研究チームでは説明している。

また、このようなレム睡眠中の毛細血管における血流上昇には、カフェインの標的物質として知られる「アデノシン受容体」が重要であることも判明。アデノシン受容体の1つである化合物「A2aR」を遺伝的に欠損したマウスでは、覚醒時やノンレム睡眠中の大脳皮質毛細血管の血流には変化が見られず、そしてレム睡眠中にも血流の上昇はほとんど起こらなかったという。

今回の成果を受けて研究チームでは、今後、レム睡眠時間の割合と脳の老化や認知機能の低下との因果関係を解明していく予定としている。また、研究の進展により、レム睡眠の割合を効率的に増やす睡眠薬や行動療法の開発による脳の機能低下や認知症の予防、さらに、アデノシン受容体を標的とする、脳の栄養供給や老廃物除去などの物質交換を人為的に活性化して脳機能を高めるという、新たな認知症の治療法開発につながることも期待されるとしているほか、アデノシン受容体の働きを阻害する物質として知られるカフェインについて、睡眠中の脳での物質交換に及ぼす影響を明らかにすることも、これらの研究を進める上で重要だと考えられるとしている。