企業でのDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が叫ばれている中、経営計画への落とし込みや具体的なツールの導入などが業界を問わず進んでいる。

しかし、戦略や各種プロセスが分散・分断した状態でツール導入などを進めた結果、断片的な「デジタル化」にとどまり、DXのゴールである企業の競争力向上にまでつなげられないケースは少なくない。

HubSpot Japanは8月25日に記者向けの勉強会を開催。企業のDX推進を阻む要因とともに、営業、マーケティング、カスタマーサービス領域のDXの一助となる「オペレーション」のポイントを解説した。

日本企業で起こる「分散・分断」とは?

HubSpot Japan マーケティングチーム マネージャーの亀山將氏は、同社製品を検討する企業の声から、日本企業がDXを推進する中で共通して抱えている課題として、「分散・分断」を挙げる。

リモートワーク普及によりデジタル化を迫られるも、社内体制が追い付かず社内プロセスや情報、戦略が分散してしまい、その結果、属人化や属チーム化が進んで従業員間やチーム間で分断は起こる。

  • HubSpot Japan マーケティングチーム マネージャー 亀山將氏

例えば、CRMを導入したものの、営業プロセスが整っておらず結局解約することになったり、「データ活用」しようにも社内ツールに蓄積されたデータが信用できなかったりといったことが起きている。また、引き継ぎの問題や組織のサイロ化も、HubSpot Japanがこれまで関わっていた日本企業では多く見られたそうだ。

「高度かつ複雑な問題ではなく、日々の業務運営における基本的な部分で悩んでいる企業が多い印象だ。例えば、当社が提供するCRMには、『昔から使っているツールの管理者が不明』、『管理者用メールアドレスを管理しているのが誰かわからない』という問い合わせは毎週のように届いている」と亀山氏は明かす。

「オペレーション」に必須な3つの機能

企業のDXを阻む、ツール・情報・組織・戦略の「分散・分断」という課題解決のため、HubSpot Japanが重視するのが「オペレーション」機能だ。 「オペレーション」は従来、後方支援的存在と位置づけられてきたが、近年では企業内の業務インフラ管理やプロセスの整備、戦略立案を行う機能として注目され、専任の組織や担当者を置く流れが欧米を発端に現れ始めているという。

日本では専任のチームが置かれないケースがほとんどで、情報システム部門やITチーム、経営企画室や営業推進室が担っているか、マーケティングや営業担当者の中で「ツールに強い人」が兼任していることがほとんどだ。

HubSpot Japanは、オペレーションを担うチームや部門に求められる役割を3つの「P」で表す。

1つ目は「Platform」で、業務支援テクノロジーの管理を指す。業務支援ツールの選定はマーケティングや営業部門の担当者とともに検討するが、既存の社内ツールと連携できる製品を選定し、顧客管理情報の一元管理を実現することがオペレーション担当者には求められる。

2つ目は「Process」で、業務プロセスの構築と最適化を意味する。整理した業務支援ツールを基盤としながら、部門横断で確実にデータを受け渡して、効率の良いプロセスを構築する必要がある。

  • 業務プロセスの構築と最適化のポイントと例

3つ目は「Perspective」で、データ分析だけでなく戦略立案も含む。「Platform」、「Process」の行程を経るとツール上にさまざまなデータが蓄積される。そのデータを抽出し、過去の振り返りから未来の計画策定までを行うことが重要だ。

「3つの機能を満たすことは、ツール・情報・組織・戦略の『集約・連携』を実現し、マーケティング・営業・カスタマーサービスなどの顧客対面部門の生産性向上を促す」(亀山氏)

顧客体験の質を向上させる「レベニューオペレーション」

企業の生産性、収益性向上を実現するDXの達成には、社内の分散・分断の解消だけでなく、顧客の体験もより良いものにしようとする意識が必要だ。例えば、引き継ぎがうまくいかなければ、社内での業務に支障を来すだけでなく、顧客に何度も同じことを説明したり適切な提案ができなかったりと、顧客体験を損ないかねない。

そのため、HubSpot Japanは、セールス、マーケティング、カスタマーサービスといった顧客対面部門の横断的な統合と、顧客との直接的な接点の2つを満たす「レベニューオペレーション」の実現が重要と考える。

特定の部門だけでオペレーションの3つの機能を満たしても、顧客の購買プロセス全体の質を高められないし、顧客の視点を持たないとコミュニケーションが売り手本位となって顧客離れを招きかねない。また、顧客の実態から離れたデータを信じて、的外れな施策をとることもあり得る。

横断的な統合と顧客接点を兼ね備えた組織なら、ツール選定や戦略立案に顧客の生の声を反映させ、その企業が本来行うべき、的を射た行動が取ることができるため、今、レベニューオペレーション組織が注目されているという。

  • 世界で注目されるレベニューオペレーション組織

実際、HubSpotでも、2020年に独立していたオペレーションチームを統合したレベニューオペレーションチームを立ち上げた。現在は、「フロントオフィス全体の最適化」の観点から、ツール設定やプロセス策定、データ分析などを行う。またチーム内には、顧客から改善点や要望、サービス利用にあたって顧客の障害となっている要因を吸い上げるための「Voice of Customer Team(お客様の声チーム)」を設置する。

企業の「オペレーション」機能の実装を支援すべく、HubSpotは2021年4月に「Operation Hub」をリリース。同サービスでは、3つのPをオペレーションチームに落とし込むためのさまざまな機能が搭載されている。

日本企業の9割以上は中小企業と言われており、少子高齢化に伴う労働人口の減少や働き方改革、昨今の新型コロナウイルス感染拡大によるビジネス慣習など変化の渦中にある。

HubSpot Japan シニアマーケティングディレクター 兼 共同事業責任者の伊佐裕也氏は、「Operation Hubをはじめとしたソリューションを広めることが、日本の中小企業に収益性や競争力の強化をもたらし、結果として当社の事業成長にもつながるとの判断から日本を注力マーケットと捉えています」と語る。

  • HubSpot Japan シニアマーケティングディレクター 兼 共同事業責任者 伊佐裕也氏

今後、HubSpot Japanは日本事業の基盤の一層強化、CRMプラットフォームとしての製品・サービス強化、ニューノーマルにおける働き方の実践と提言などに注力するという。ユーザーサポートの面では、HubSpotのユーザーグループ「Japan HUG」の立ち上げ、Eラーニングコンテンツ「HubSpotアカデミー」日本語版の強化も進める予定だ。