名古屋市立大学(名市大)、大阪大学(阪大)、東北大学、京都府立大学(KPU)、国立科学博物館(科博)の5者は8月26日、尿路結石の形成に深く関わる3種類のタンパク質(オステオポンチン、プロトロンビンフラグメント1、カリグラニュリンA)を例として、結石内部における各タンパク質の局在状態をマイクロメートルスケールで可視化する技術を開発することに成功したと発表した。
同成果は、名市大大学院 医学研究科 泌尿器科学分野 大学院生の田中勇太朗臨床研究医、阪大 高等共創研究院/阪大大学院 工学研究科の丸山美帆子准教授(KPU特任准教授兼任)、名市大大学院 医学研究科 腎・泌尿器科学分野の岡田淳志准教授、東北大大学院 理学研究科の古川善博准教授、科博の門馬綱一研究主幹らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
尿路結石症は腎臓から尿道までの尿路に結石が生じる疾患で、猛烈な痛みを伴い、敗血症や腎不全などの合併症を併発すれば死に至ることもある。しかも、生涯罹患率10%以上、再発率が50%以上とも言われており、年々罹患率が上昇しているともいわれている。
結石の最も有効な再発予防法は「水分をしっかり摂ること」で、これは約2000年前からまったく変わっていないという。尿路結石は90%以上を無機成分、残りの0.1~10%程度を、100種類以上のタンパク質などの有機成分が構成しているとされる。
尿路のどこかで結晶が核形成して成長し、凝集。最後は固化するという流れが現在までに把握されている結石形成メカニズムの大筋だが、各過程がどのような機構で進行するのか、そしてどのタンパク質がこの凝集や固化を促すのかなどの詳細は不明なままとなっており、そのため尿路結石症の根本的な予防法や治療法が開発できないこととなっている。
結石に含まれる結晶の状態(結晶の種類、結晶構造、粒径分布など)は患者の尿環境を直接反映しており、さらに結石成長に関わるタンパク質も内部に分布している。そこから阪大の丸山准教授らは、結石そのものが体内での結石形成イベントを“記録”していると考察。そして、岩石や隕石の研究で用いられる手法を導入して結石の分析を行い、そこから結石の形成過程を明らかにしようと着眼したという。
そして2018年、名市大の岡田准教授らと共に名市大、阪大、東北大、KPU、名工大、科博、産業技術総合研究所、田尻薄片製作所など、複数の大学、研究機関、企業に所属する研究者と共に、「METEOR(Medical and Engineering Tactics for Elimination Of Rocks)プロジェクト」をスタートさせた。
研究チームは尿路結石を薄片化する技術の開発、結石内部の複数のタンパク質をそれぞれに蛍光免疫染色する手法の最適化を実施。がん検査などで用いられる手法と同様に特定のタンパク質に対する抗体を反応させることで、異なる3種類のタンパク質を同時に蛍光免疫染色することに成功し、それぞれの局在状態の可視化が実現されたとした。
今回観察対象とされたタンパク質は、尿路結石の形成に深く関わる「オステオポンチン」、「プロトロンビンフラグメント1」、「カリグラニュリンA」という3種類のカルシウム結合タンパク質で、オステオポンチンは、骨、腎、血管壁、血清、母乳などさまざまな組織に存在する結合性の酸性リン酸糖タンパク質。プロトロンビンフラグメント1は、尿中に存在する代表的な糖タンパク質の1つで、カルシウムと高い親和性を持つほか、血液凝固系にも関与することが知られている。そしてカリグラニュリンAは、尿中に存在し、好中球の遊走などの炎症や免疫応答の調整に重要な役割を持つ炎症性タンパク質として知られている。
この3種類の局在の違いと、尿路結石を構成する結晶の種類や組織との関係性を詳しく調べることで、各タンパク質が尿路結石形成に与えた影響を詳しく議論することができるようになったと研究チームでは説明する。
また、この可視化技術を使うことで、尿路結石中に含まれているさまざまなタンパク質の局在分布が可視化できるようになるほか、結石を構成する結晶の状態(結晶相、大きさ、形、組織など)とタンパク質分布の関係を詳しく調べることで、尿路結石を大きく固くしてしまうタンパク質の特定も期待されるとしており、将来的には、そのメカニズムに基づいた新しい予防法や、これまで不可能と考えられてきた結石溶解療法の開発も期待されるとしている。